扇動したのも「丈右衛門だった男」という衝撃

I:情報戦というと、ストンと落ちることがあります。
A:田沼意知が亡くなった後に、その葬列に石が投げられたこと、加害者の佐野政言を「佐野大明神」などと持ち上げたことは史実として語られています。「田沼政治=金権政治・悪政」という強烈なレッテルを貼ろうとするわけです。でも、こうした一連の事象が「情報戦の一環」で行なわれた扇動戦だとしたら、どうでしょうか。
I:蔦重も気が付いていましたが、葬列に石を投げていたのは「丈右衛門だった男」です。確かに情報戦といえば情報戦。よくよく考えれば、まだこの段階で、庶民が若年寄の葬列に投石するだろうかとは思いました。「佐野大明神」ももしかしたらとは思います。
A:『べらぼう』の脚本が秀逸なのは、壮大なるエンターテインメントに仕立てあげながら、この時代の解像度を格段にアップさせているところです。そればかりではなく、現代社会への警鐘もあるのではないかと感じたりしています。
I:不確定な情報には騙されてはならないということですかね。
A:権力が本気になって「悪」と断罪した田沼意次は復権するまで200年以上かかっています。偽情報恐るべしです。そして、こうした流れの中で、蔦重(演・横浜流星)は蔦重の立場で「情報戦」に参戦することになるのです。

●編集者A:書籍編集者。『べらぼう』をより楽しく視聴するためにドラマの内容から時代背景などまで網羅した『初めての大河ドラマ~べらぼう~蔦重栄華乃夢噺 歴史おもしろBOOK』などを編集。同書には、『娼妃地理記』、「辞闘戦新根(ことばたたかいあたらいいのね)」も掲載。「とんだ茶釜」「大木の切り口太いの根」「鯛の味噌吸」のキャラクターも掲載。
●ライターI:文科系ライター。月刊『サライ』等で執筆。猫が好きで、猫の浮世絵や猫神様のお札などを集めている。江戸時代創業の老舗和菓子屋などを巡り歩く。
構成/『サライ』歴史班 一乗谷かおり
