さらに重要なのが、島津重豪が優秀だったこと
A:さて、ここで重要なのが、島津重豪は、「蘭癖大名」の筆頭格として、自身も中国語、オランダ語など複数の言語に通じて、まるで平賀源内の大名版といってもおおげさではないほど優秀な人物だったことです。鹿児島市の『尚古集成館』には、薩摩藩近代化の足跡がよくわかる資料群が展示されていますが、その源流は、島津重豪の功績ということになります。ただし、その一方で、薩摩藩の借金を飛躍的に増大させたことでも知られています。
I:なるほど。功罪相半ばするということですね。
A:重豪は長生きで89歳まで生きました。曽孫が斉彬で、斉彬のことを幼少時はいっしょにお風呂に入るなどかわいがったようです。影響は大きかったと思います。さて、重豪は家治の世子となる一橋豊千代に娘茂姫を嫁がせます。これまで将軍正室といえば、京都の公家から選ばれるケースが多く、外様大名から将軍家に正室として嫁ぐのは初のケースでした。
二馬力で大河ドラマが10倍楽しめる
A:ということで、今さらいうのもなんですが、『八代将軍吉宗』を振り返ると、『べらぼう』江戸城パートの解像度がいや増します。「浄岸院=竹姫」のこともそうですが、石坂浩二さん演じた松平武元が継いでいた「松平清武家」についても懇切丁寧に説明されていますし、最終盤には、田沼意次や松平武元、子ども時代の徳川家治も登場しています。
I:『八代将軍吉宗』で、松平武元を演じていたのは、香川照之さんなんですよね。
A:30年前のドラマですから、まさに「紅顔の若大名」という感じで凛々しいのですよ。吉宗から家治の後見を頼まれていました。そういうシーンに触れると、「大河ドラマの大河」に触れているようで感慨深いのですよ。さらに、将軍家治にしても、利発で聡明であることが強調されていました。吉宗と将棋をさす場面も挿入されるなど、「ああ、もっと早くに気がつけば」と忸怩たる思いです。現在、『八代将軍吉宗』は、NHKオンデマンドで視聴可能です。全話見る余裕がないという方は、30、36、37回(竹姫登場回)に加えて、ラスト3話を見ていただくと「おお!」ということになると思います。
I:きっと、歴史と歴史の間に一本どん! と串刺しされたような感じになるのですよね。
A:こんなことをいうと、「お前はNHKの回し者か」という人も出てくるかもしれないですが、『八代将軍吉宗』を見るとおもしろさ二馬力。今よりさらに、10倍以上『べらぼう』を楽しめること請け合いです。本当は、番組広報でアナウンスしてほしかったくらいの話なんですけどね(笑)。
徳川家と島津家のその後も縁が続く
I:さて、吉宗によって将軍家の養女竹姫を無理やり嫁がされた島津家ですが、竹姫との縁がきっかけで、徳川将軍家との絆が深まったのですが、重豪の曽孫篤姫が13代将軍家定に嫁ぐことになるのも両家の絆の賜物です。
A:篤姫と将軍家との婚姻を進めた島津斉彬は、前述のように、重豪にかわいがられた曽孫です。同じく重豪曽孫の篤姫が将軍家定に嫁ぐというのもやはりご縁ですよね。そして、徳川家と島津家の縁は、維新後も続きます。篤姫(天璋院)の遺言ということですが17代徳川家正と島津忠義(島津久光嫡男)の娘正子が結婚します。ふたりの間に生まれた嫡男家英が東北帝国大学在学中に夭逝します。「家」の通字を与えられていた嫡男が家督を継がずに亡くなるのは「幻の11代」徳川家基以来のこととなりました。これもまた奇縁というべきなのでしょうか。
I:大河ドラマの中に「大河ドラマ」が流れているような話ですね。
ついに11代家斉になる豊千代が登場
I:ということで、江戸城の暗闘が続く中で、将軍家治の世子に一橋家の豊千代が決定しました。後の第11代将軍家斉になる人物ですね。
A:当欄で既報なのですが、家斉の将軍就任回をもって、大河ドラマ64作にして、江戸幕府徳川将軍15人、全員登場ということになるわけです。
I:最後のピースは、どんな描かれ方をされるのでしょうか。
A:大河ドラマファン全員で祝意を表したいですね。

●編集者A:書籍編集者。『べらぼう』をより楽しく視聴するためにドラマの内容から時代背景などまで網羅した『初めての大河ドラマ~べらぼう~蔦重栄華乃夢噺 歴史おもしろBOOK』などを編集。同書には、『娼妃地理記』、「辞闘戦新根(ことばたたかいあたらいいのね)」も掲載。「とんだ茶釜」「大木の切り口太いの根」「鯛の味噌吸」のキャラクターも掲載。
●ライターI:文科系ライター。月刊『サライ』等で執筆。猫が好きで、猫の浮世絵や猫神様のお札などを集めている。江戸時代創業の老舗和菓子屋などを巡り歩く。
構成/『サライ』歴史班 一乗谷かおり
