時代の空気をつくった徳川家治

A:これも時代の空気でしょうね。徳川家治は、自身で謙遜していますが、祖父の吉宗からは将来を嘱望された俊才。俊才だからこそ、政治は田沼意次(演・渡辺謙)に一任する。「将の能にして君に御せざる者は勝つ」という『孫氏』の兵法を地でいく為政者だったのではないかと思ったりします。

I:つまり、時代の空気をつくったのはほかでもない徳川家治ではないかという説ですね! 確かに、そんな気がしないでもないです。さきほどもAさんがいっていましたが、声優の水樹奈々さんが演じる智恵内子ら町人の文化が花開いたのも特徴です。昨年の『光る君へ』では、紫式部、清少納言、和泉式部らの女流作家が執筆活動に励みました。中級貴族の子女らが王朝文学を牽引する様子が大河ドラマで描かれましたが、『光る君へ』の時代から800年、庶民の女性が文化を牽引する時代がやってきたということです。感慨深いですね。

A:平安時代と江戸中期の共通事象といえば、「平和な世」ではないでしょうか。さて、狂歌の会では、「わが恋は鰻の見えぬ桶のうちの ぬらぬらふらふら乾く間もなし」という作品が紹介されました。「わが恋は」という発句はよくあるものですが、これは百人一首にある二条院讃岐の「わが袖は汐干に見えぬ沖の石の 人こそ知らね乾く間もなし」を本歌とする設定でしょうか。適当に詠んでいるようで、実は古典を材にしながら、教養を誇示するような、わりと高尚な嗜みのようです。

I:元木網や智恵内子は湯屋の主人と女将。人を食った狂名がおかしいのですが、智恵内子の「内子」は「内侍」のパロディ。『光る君へ』に紫式部の同僚の女官として「左衛門の内侍」が登場していましたよね。大田南畝は御徒ということで軽輩ながら幕臣ですし、秋田藩江戸留守居役の「平沢常富=朋誠堂喜三二」も「手柄岡持」という狂名で狂歌を嗜んでいます。身分の垣根をとっぱらった楽しい会だったのでしょう。

A:前出のミネルヴァ書房『大田南畝』によれば、当時御徒組は月に数度の出仕で済んだそうです。現代の感覚からすれば、有り余る時間があったわけです。文化活動に充てるには十分な時間があったことになります。

I:なるほど。見方によれば、それだけ時間的に余裕のある幕臣をあまた抱えていたわけですね。逆説的には「そりゃ幕府潰れるよね」ともいえますよね。

A:そこもまた歴史のおもしろいところですね。

I:さて、蔦重と日本橋の本屋との攻防も佳境を迎えつつあります。一連の流れを見て、実際はもっと「生き馬の目を抜く」世界だったんだろうなという印象ですし、そこで勝ちぬいた蔦重って希代の人たらしだったんだろうな、と改めて思います。

日本橋の本屋たちと対峙する蔦重(中央/演・横浜流星)。(C)NHK

●編集者A:書籍編集者。『べらぼう』をより楽しく視聴するためにドラマの内容から時代背景などまで網羅した『初めての大河ドラマ~べらぼう~蔦重栄華乃夢噺 歴史おもしろBOOK』などを編集。同書には、『娼妃地理記』、「辞闘戦新根(ことばたたかいあたらいいのね)」も掲載。「とんだ茶釜」「大木の切り口太いの根」「鯛の味噌吸」のキャラクターも掲載。

●ライターI:文科系ライター。月刊『サライ』等で執筆。猫が好きで、猫の浮世絵や猫神様のお札などを集めている。江戸時代創業の老舗和菓子屋などを巡り歩く。

構成/『サライ』歴史班 一乗谷かおり

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