
日常会話をしていて、あるいは、文章を書いていて、「あれ、この日本語って合っているのかな?」と思ったことはありませんか。ライターの私ですら、そう思うことがたびたびあります。当然ですよね、言葉は時代とともに変化していくものですから。
NHK放送文化研究所主任研究員・塩田雄大さんの著書『ゆれる日本語、それでもゆるがない日本語』(世界文化社)では、NHKならではの徹底した調査を基にして、迷いがちな言葉についてその意味や現代での使われ方などを解説しています。
今回は、『ゆれる日本語、それでもゆるがない日本語』の中から、「間違う」と「間違える」の使い分けについて取り上げます。
両方とも使える場合が多いが、微妙な違いがある
Q:「間違う」と「間違える」とは、どう違うのでしょうか。
A:非常に微妙な違いがあります。「間違う」は「正しい(あるべき)状態から外れていること」、「間違える」は「AとBとを取り違えること」がそれぞれ意味の中心になっていると言えます。
多くの場合には両方とも使えることが多いのですが、とらえ方が異なります。
試験で答えを「間違った」と「間違えた」の違いとは?
まず「間違う」は、ある「正しい状態」があるのにそのようになっていない、というときに使われます。たとえば「人として間違った道を歩む」の場合、「道義的に正しい生き方」というものがあるにもかかわらずその道を歩んでいない、ということを表します。この場合、「人として間違えた道を歩む」とはふつう言いません。
一方「間違える」は、ある二つのものについて「取り違える」ことを表します。「ブーツの左右を間違えて履いてしまった」と言った場合、「右と左とを取り違えてしまった」という意味になります。ただし、「右用は右足に、左用は左足に履くのが正しい履き方だ」というニュアンスがあれば、「間違って履いてしまった」と言うことも可能です。
何かの試験を受けたときに、「あるべき正解から外れた」という意味では「答えを間違った」ですし、「正解はAであるのにBと書いてしまった」という意味では「答えを間違えた」ということになります。
なお名詞の形になると、どんな場合でも「間違え」より「間違い」のほうが多く使われるようです(例「[間違い/間違え]を見つけた」)。
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ゆれる日本語、それでもゆるがない日本語 NHK調査でわかった日本語のいま
著/塩田雄大
世界文化社 1,870円(税込)
塩田雄大(しおだ・たけひろ)
NHK放送文化研究所主任研究員。学習院大学文学部国文学科卒業。筑波大学大学院修士課程地域研究研究科(日本語専攻)修了後、日本放送協会(NHK)に入局。『NHK日本語発音アクセント辞典 新版』などに従事。2011年、博士(学習院大学・日本語日本文学)。著書に『現代日本語史における放送用語の形成の研究』など。2015年からNHKラジオ第1放送『ラジオ深夜便』「真夜中の言語学 気になる日本語」担当。『三省堂国語辞典』の編著者のひとりでもある。
