「大河学校に留学するということ」
A:さて、石坂さんにとって、「大河ドラマ」とは? という質問にも答えてくれました。石坂さんは、初めて役付きで大河ドラマに出演した『太閤記』(1965年)で石田三成を演じて以来、『天と地と』(1969年)では上杉謙信、『元禄太平記』(1975年)で柳沢吉保、『草燃える』(1979年)で源頼朝、『徳川家康』(1983年)で竹之内波太郎(後に納屋蕉庵)、『八代将軍吉宗』(1995年)で間部詮房、前述の『元禄繚乱』(1999年)で吉良上野介、『新撰組!』(2004年)で佐久間象山、『江~姫たちの戦国~』(2011年)で千利休を演じてこられました。このうち、上杉謙信、柳沢吉保は主演で、源頼朝も北条政子役の岩下志麻さんとW主演でした。私が初めて通しで視聴した大河ドラマが『草燃える』になります。そうした縁もあり、石坂さんは私にとって特別な存在だったのですが、今回、改めて大河ドラマとのご縁について語ってくれました。
初めて主演のお話をいただいた『天と地と』の際に、「大河ドラマは1年かかるんだよ、大丈夫かね」って脅かされたんです。NHKの中にあった記者クラブに出かけていって、みんなからやんややんやいわれて、すごい大変なんだなと思った記憶があります。大河ドラマの場合、年を追ってずっと演じていかないといけないので、「そういう芝居は年をとった時にとっておいてもいい」とか、「目線の高さが少しずつ変わった方がいい」とか、いろんなことを教えていただき、芝居というもののやり方というか、相手役との間のとり方とか、勉強になりましたね。長いことやるので、「大河学校」に留学したみたいな気持ちになるのです。
I:留学という言葉がすごく響いてきますね。
A:『べらぼう』で蔦重を演じている横浜流星さんは今年28歳。石坂さんが初めて大河ドラマで主演を張った『天と地と』の際の28歳と同年齢です。『べらぼう』では、蔦重と松平武元が直接からむ場面がないことが残念極まりないのですが、ちょっと後半にかすかな期待を抱いてしまうのです。というのは、石坂さんは、インタビュー中で、松平武元のような幕府側の人間よりも「絵師」などを演じたかったと漏らす場面もあったのです。劇中では横浜流星さんと里見浩太朗さん演じる須原屋市兵衛が絡む場面は幾度か登場して、「穏やかな感動」を大河ドラマファンは共有しているわけですが、やはり、横浜さんと石坂さんの絡みも見たい! という欲求に駆られるわけです。
I:どういうことでしょう。
A:松平武元の退場で石坂さんも『べらぼう』から去るわけですが、後半に蔦重と絡む役で再登場してもらえないだろうか、と思ったりしています。幸い、松平武元は「白眉毛」が強烈だったので、「再登場感」をあまり感じることなく登場することが可能ではないかと。
I:そんなこといったら怒られますよ……。実現したら面白いですけどね。さて、石坂さんのインタビュー、最後の質問は「今後の俳優活動について」でした。
今回、松平武元が、映画や舞台でも取り上げられたことのないあんまり知られていない人物だったというのが嬉しかったです。これはやりがいがありました。そういう今まであまり取り上げられてこなかった人物にスポットライトを当てる時に、その人を演じてみたいなと思います。大河ドラマもそうですし、NHKではよく、明治維新後に活躍した人物にスポットをあてるドラマを制作していました。そうした人たちにもう一度焦点があてられ、そうした人物を演じるのはいいなと思っています。
A:この最後の石坂さんのお話が心に沁みました。私が子供のころ、といっても中学1年のころですが、NHKで『ポーツマスの旗』というドラマが放送されました(1981年)。日露戦争終戦後の日本側講和首席全権だった小村寿太郎が主人公のドラマです。石坂さんは小村寿太郎を演じていました。ロシア国内の分断工作のために欧州で諜報活動を行なっていた明石元二郎を原田芳雄さんが演じた骨太なドラマでした。
I:石坂さんはきっとそういうドラマにもう一度出演したいのですね。
A:そういえば『ポーツマスの旗』。NHKオンデマンドにはいってないなあ。もう一度見たくなりました。

●編集者A:書籍編集者。『べらぼう』をより楽しく視聴するためにドラマの内容から時代背景などまで網羅した『初めての大河ドラマ~べらぼう~蔦重栄華乃夢噺 歴史おもしろBOOK』などを編集。同書には、『娼妃地理記』、「辞闘戦新根(ことばたたかいあたらいいのね)」も掲載。「とんだ茶釜」「大木の切り口太いの根」「鯛の味噌吸」のキャラクターも掲載。
●ライターI:文科系ライター。月刊『サライ』等で執筆。猫が好きで、猫の浮世絵や猫神様のお札などを集めている。江戸時代創業の老舗和菓子屋などを巡り歩く。
構成/『サライ』歴史班 一乗谷かおり
