文/鈴木拓也

写真はイメージです。

一生の間に6年以上も夢をみている

睡眠に関する医学的研究の進歩は目覚ましいが、同じく認知科学的な解明が進んでいるのが「夢」だ。

意外に思えるかもしれないが、誰しも毎晩数回の夢をみているという。「最近、夢を全然みていないよ」という人でも、それは忘れているだけなのだそうだ。仮に90年生きたとして、そのうち夢をみている時間は、実に6年から7年半。そう聞くと、がぜん夢に興味がわいてくる。

そもそも、なぜわれわれは夢をみるのだろうか?

いくつか説があって、「感情を整え、苦しい体験を克服し、新しく記憶を形成、修正するためのセルフモニタリングのツール」ではないかと提唱するのは、東洋大学社会学部社会心理学科の松田英子教授だ。

夢と睡眠の専門家である松田教授は、著書『1万人の夢を分析した研究者が教える 今すぐ眠りたくなる夢の話』(ワニブックスPLUS新書)でこう書いているが、ひらめきを導く役割も夢にはあるという。例えば、ビートルズの名曲『イエスタデイ』は、P・マッカートニーが夢から着想したものであった。あまり気づかないだけで、夢はわれわれの人生に大きな影響を及ぼしているのかもしれない。

世代によって変わる夢の特徴

本書の興味深い内容の一つに、世代別にみた夢の特徴というのがある。松田教授は2015年より、さまざまな年代の人を対象に、夢に関する質問紙調査を行っているが、世代によって夢の傾向は異なるそうだ。

小学生だと、遊びに関する楽しい夢が多く、ときにはゾンビが登場する怖くて非現実的な夢をみる。それが10~20代では、学校やアルバイトといった現実と関連した夢が増えてくる。悪夢では、殺される夢や失敗する夢が多いが、自立やアイデンティティの確立と関連していると、松田教授は考えている。それが、30~40代になると、仕事や家族の夢が増えるが、現実のストレスから悪夢もみやすい世代だと評価されている。

50代に入っても、現実的な夢が多いが、楽しい夢の比率が増えるという。70代を超えると、実人生で増える死別・離別を反映したような夢が増え、同時に小さい頃、若い頃など人生を振り返る夢もみがちなのだそうだ。

前述したように、人は毎晩いくつもの夢をみるわけだが、世代を問わず夢を形作るのは、ふだんから気にしていることが多いとも記されている。

予知夢は本当に予知なのか?

夢のなかには、予兆的なものもあるがこれはどうとらえるべきか。松田教授は、80代女性のエピソードを紹介している。

70代の妹が「コロナになって辛い、辛い」と言っていた夢をみました。
起きたあと、何があったのかと心配になって、自分の50代の娘から妹に連絡をとってもらったところ、「自分(妹自身)は元気だが、実は娘一家の3人がコロナにかかって自宅療養している。かといって、自分が高齢のため看病にもいけず大変だった」そうです。(本書101pより)

夢を報告された方は、「自分のもとに妹が生霊になって出てきたのか」といぶかしんだという。松田教授によれば、この夢は「お互い高齢で、しばらく連絡がないことを気にしている」「連日のコロナ感染爆発のニュースによる不安」が、背景にあると見る。

ところで、みた夢の内容が現実的に起こる例が、古今東西で報告されている。これは予知夢と呼ばれているが、松田教授は、認知バイアスが一因にあるのではないかとする。

つまり、事件の直前に見た夢が類似していれば予知夢とみなすが、そうでなければ夢自体を忘れてしまって、認知的な偏りが起こる。特に自然災害が多い日本では、この被害に対する不安をもちやすく、災害に絡んだ夢を見る傾向が強くなる。それで、たまたま日本のどこかのみならず世界のどこかで災害が起きると、「昨晩みた夢は予知夢だったのでは?」と考えてしまう。夢の内容が生々しければ、そう考えるのも無理はないだろうが、悪夢を予知夢とみなすのは、「さらに不安をかき立てる悪循環を生む危険性がある」そうで、松田教授はすすめていない。

いい夢をみる方法はあるか?

どうせみるなら悪夢より、楽しい夢のほうがいい。みたい夢をみる方法はあるのだろうか?

簡単な方法として、松田教授が挙げるのが「寝る前にみたい夢のイメージをする」というものだ。ただし、成功するにはコツがある。松田教授は、実験協力者のRさんの例を出している。

方法:ひたすら、“みたい夢”について考え、「空を飛ぶ夢」をみるために延々と“空を飛びたい”と考えたりした。
結果:しかし、テストや単位が不安すぎて、そのことばかり考えていたら「単位を落とす夢」など悪い夢ばかりみた。結局、現時点ではみたい夢をみられていない。(本書146pより)

このように、現実的な心配事があると、どうしてもそちらに意識が向いて、それが夢に反映されてしまいやすくなる。そのため、「就寝直前にはネガティブなことを考えないように」と、松田教授はアドバイスする。

また、快眠はいい夢をみる可能性を高める。寝室は、外部からの光や音を遮るようにし、布団は重すぎず、ほどよい温度と湿度を保つようにするなど、睡眠環境を良くすることがすすめられている。昨今、寝る直前までスマホを見ている人は少なくないが、これは脳や目への負担を増やすので、極力避けるべきだとも。

* * *

松田教授は、夢には「私たちが自分らしくよい人生を歩んでいくためのヒント」が、数多く隠されていると書いている。われわれは、睡眠時間を削ってまで、せわしない人生を生きるよりは、眠りの世界をもっと大事にする方向に舵を切ったほうが賢明かもしれない―そう考えさせてくれる有用な1冊としておすすめしたい。

【今日の教養を高める1冊】
『1万人の夢を分析した研究者が教える 今すぐ眠りたくなる夢の話』

松田英子著
ワニブックスPLUS新書

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文/鈴木拓也 老舗翻訳会社役員を退任後、フリーライター兼ボードゲーム制作者となる。趣味は神社仏閣・秘境巡りで、撮った映像をYouTube(Mystical Places in Japan)に掲載している。

 

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