暮らしを豊かに、私らしく

残酷と思われがち。でも、個性的で面白い食虫植物

私が好きな植物はいろいろありますが、その時々で変わります。季節でも変わりますし、長年気にならなかった植物が急にステキに見える時もあれば、花じゃない部分に魅力を感じることもあります。そんな中で今回は、「食虫植物」についてお話ししたいと思います。

食虫植物は、私にとってホームセンターの園芸コーナーで立ち止まったり、市場で眺めたり、「買っちゃおうかな」と迷ったりする気になる植物です。ですが、食虫植物なんて聞くと、「虫を溶かす植物でしょ?」とか、「虫を生きたまま与えるのか?」などと聞かれ、「残酷な植物」と思われがち。しかし実際は、虫を与えることもないので、穏やかな日々を過ごせます。また、食虫植物の魅力は不思議な草姿だと思って眺めると、モダンアートのような魅力を感じられる点です。

種類豊富なサラセニアは、形違いを組み合わせて寄せ植えにするのがおすすめ!

例えば、「サラセニア」という植物。筒状の袋に見える葉を煙突のようにいくつも立てて、あみだくじの様な模様をしています。この筒の中を覗くと、煙突掃除のブラシみたいに細かな毛のようなものが、びっしりと並んで生えていて……「これじゃ虫は出てこられないな〜」と気の毒に思うのです。「落ちたら大変だな」と思い、誰も落ちないように手を差し出したくなりますが、それでは植物がかわいそうなので、どうしたらいいものかと考えます。この無意味な感情移入によって、植物相手に正義と悪を対決させている自分に出会うことにもなり、なんだか面白く感じてしまいます。

サラセニア外見
あみだくじのような網目模様が美しい植物です。
サラセニアの内側
消化液が底の部分に溜まっていて、じわじわ溶かして養分を吸収する仕組み。

そして、このサラセニアは、いろいろな種類の形状があるので、いくつか形違いを組み合わせて寄せ植えにするとステキにカッコよく飾ることができます。「盆栽のように静かな迫力を楽しむ寄せ植えにしようかな?」など、器と草姿のバランスを考えるといいでしょう。

盆栽鉢の寄せ植え
水を切らさないように、お水を溜めながら育てます。

中でもおすすめは、浅い盆栽鉢に数種類の形違いのサラセニアを合わせた寄せ植えです。湿地の植物であるサラセニアは水枯れしないように育てます。湿地の状態を再現するため、水がこぼれない容器で栽培することもできますし、底穴が空いている鉢を使う時は受け皿をすれば鉢底から水を吸わせることもできるので、酷暑でも栽培可能です。置き場所に適しているのは、日当たりが良い場所。この夏の暑さで不安になりますが、暑さは問題なく、水切れにだけは注意して育てます。その点に気を付けながら、虫を煙突状の筒には入れずに、食虫植物のアートっぽい雰囲気を楽しみます。

形状違いのサラセニア
ぷっくりしたもの、ほっそりしたものなどいろいろあって個性が豊か。
サラセニアの苔玉
夏のシーズンだけなら、苔玉で水を薄く張った状態で育てます。
ステンレスのボウルですが、異素材との組み合わせでおしゃれに楽しめます。

サラセニアは冬が近づくと、地上部が枯れ込みます。寒さに弱い植物ですが、雪の日でも外に出しっぱなしで大丈夫。春になると地上部に新しい芽が伸び、新しい株で育ちます。桜の花が咲く頃には、サラセニアの花が咲きます。小豆色をした花で、折り紙で作ったような質感の花で、鑑賞期間が長いのが特徴です。時が経つにつれ、小さな変化がいくつも重なり、不思議だな? と眺めている間に、心惹かれる植物になると思います。

葉の先端には捕虫袋が……! アート作品のような姿形が面白いネペンテス

カップ型の鉢カバーに入れただけのネペンテス。
インテリアとして成立する魅力があります。

他にアートっぽさが際立つ食虫植物が、「ネペンテス」という植物です。「ウツボカズラ」って聞いたことありませんか? この植物を見聞きすると、私は子どもの頃、夏休みになると母がよく観葉植物として家に飾っていたのを思い出します。当時は、鉢のまわりにいくつもぶら下がっている翡翠色のツボのような巾着状のものをうっかり逆さまにしてしまい、中の消化液がこぼれて「手が溶けちゃう……!」と慌てたものです。最近では、翡翠色の捕虫袋だけでなく、小豆っぽい色合いや、驚くほど大きな捕虫袋をぶら下げる品種や、小指の爪ぐらいの細さの捕虫袋を持つ品種など、色や大きさなどのバリエーションが増えました。ネペンテスは、サラセニアとは置き場が異なり、軒下程度の直射日光が当たらない屋外で育てます。直射日光が当たらなければ室内の栽培も可能ですが、風通しが悪い室内や、室温が低くなりすぎると生育が鈍くなる植物です。

この植物は、よくよく観察すると葉の先端部分が袋になっていて、捕虫袋が下がる面白さがあります。なので、ハンギングで日陰の壁を飾ったり、デコラティブなカップ型の鉢カバーを使って、モダンな雰囲気を楽しんだりするのがおすすめです。寒さが苦手な植物なので、コートを羽織るような時期には室内の明るい窓辺で育てます。レース越しの日差しがあれば、生育には十分です。

寒い冬は休眠期になるので、植え替えをするならこのタイミングで行います。鹿沼土や、赤玉土などの無栄養の土で植え替えるのもいいですが、新しい水苔で根をやさしく包むようにするのがいいでしょう。

ネペンテスのハンギング
アイアンのハンギングバスケットに、水苔で植えたネペンテス。
下がる様子をカッコよく見せて楽しみます。

戦略的な知性を感じるハエトリソウやムシトリスミレ

ここまでは、草姿がアートっぽい魅力のある食虫植物をご紹介しましたが、生きていくことを存分にアピールする動物のような食虫植物が、「ハエトリソウ」です。2枚貝を平らにしたような形状の葉で、虫を檻の中に閉じ込めてしまう植物です。2枚貝のような2片の葉が閉じる仕組みは、2片になった葉の内側にあるセンサーに2回触れると、がっちゃんと葉が閉じてしまうというもの。1回ではなく、2回触れないとダメなところが、なんとも戦略的な頭脳を持っているような魅力があります。

また、「ムシトリスミレ」は、丸い葉を平らに重ねた状態で、虫が来るのをひたすら待ちます。葉の表面にベトベトした液体があり、虫がうっかり葉っぱの上を通るとくっついて離れなくなります。そのうちに葉の表面にある消化液で、虫を栄養に変えてしまうつくりをしています。花が、すみれの花に似ているので、「ムシトリスミレ」などと呼ばれていますが、名前の雰囲気とは裏腹に、結構残酷なことをする生き物だな……と思います。

ムシトリスミレ
葉っぱだけみていると、丸くて可愛らしい葉っぱに見えますが……。

この夏は、姿形、生き方が魅力的な食虫植物を観察してみては?

生きていくことの一生懸命さや、ひたむきさを感じつつも、戦略的な知性を感じる食虫植物。その戦略はすべて“生きるため”。根から栄養を吸い上げることに長けているわけではない食虫植物に、痩せ地で生き抜くための知恵を神さまが与えたとするなら……? それぞれ命を受けた時に役割があるのだなと、気づかせてくれる植物でもあります。

生きる術を恋愛や仕事に置き換えて「捕まえる派」か、「仕掛ける派」か、「誘惑派」か……。あなたはどのタイプ? などと考えながら植物らしからぬ姿を観察するのもまた面白いものです。暑さで気力もなくなりがちな夏ですが、成長と戦略を兼ね備えた食虫植物の生き方を観察しながら、夏の空を眺めるのもいいものですよね。たまには立ち止まり、ゆっくり時を過ごしてみては? と思う夏の植物遊びでした。

撮影協力/花のワルツ

杉井 志織(すぎい・しおり)
1972年生まれ、埼玉県出身。建築の専門学校を卒業後、フラワースクールで植物の生態やアレンジメント、花屋運営のノウハウなどを学ぶ。現在は、ガーデニングや花壇ボランティア運営の指導、イベント装飾、執筆活動の他、NHK『趣味の園芸』へ出演する等、各メディアで幅広く活動中。上海花卉博覧会(10th CHINA FLOWER EXPO)海外招待ガーデナー・最優秀設計賞受賞。

杉井志織さんのインタビュー記事はこちら

 

関連記事

花人日和 Online Store

花人日和
花人日和の通販

暮らしが華やぐアイテム満載

ランキング

人気のキーワード

ピックアップ

サライプレミアム倶楽部

最新記事のお知らせ、イベント、読者企画、豪華プレゼントなどへの応募情報をお届けします。

公式SNS

公式SNSで最新情報を配信中!

  • Instagram
  • LINE
おすすめのサイト
dime
be-pal
リアルキッチン&インテリア
小学館百貨店