高品質の音響設備でレコードが刻む豊かな音楽を堪能する贅沢な時間……。日本独特の文化を心ゆくまで体験できる、東京の名店を紹介する。
ウィーン楽友協会のホールを手本とし、25分の1の大きさで再現
JR阿佐ヶ谷駅北口から続く商店街が途切れたあたりに、『名曲喫茶 ヴィオロン』がある。店主の寺元健治さん(70歳)は、やはり中央線沿線の中野にあった『名曲喫茶 クラシック』に通い、画家で店主の美作七朗さんと親交を深めた。美作さんの勧めで寺元さんは昭和55年(1980)に店を開業、店内の設計や真空管を使った音響設備などすべてを自作した。
店の造りはオーストリアのウィーン楽友協会のホールを手本とし、25分の1の大きさで再現。名ホール同様に中央部の席を一段低くしている。
「店ができてから、ウィーンへ巻き尺を持って測りに行きました。ホールの幅の誤差は僅かでしたが、奥行きは警備員に怪しまれて測れませんでした」と笑う寺元さん。寺元さんが考え抜いた空間に真空管アンプの柔らかい音楽が響く。
さらにこの店で特筆すべきは、毎月第3日曜に行なわれるSPコンサートである。78回転のSPレコードをゼンマイ式の蓄音機、クレデンザで演奏する。針は鋭利に切り出した竹針を使用し、片面ごとに針を取り換える。電気を通さぬ再生は、まるで生演奏のようだ。
「レコードは決して消耗品ではありません。大切に扱えば傷むことなく、一生涯の友になります」と寺元さんは言い切った。
名曲喫茶 ヴィオロン
東京都杉並区阿佐谷北2-9-5
電話:03・3336・6414
営業時間12時~17時
定休日:火曜
交通:JR阿佐ヶ谷駅から徒歩約5分
30席
取材・文/関屋淳子 撮影/高橋昌嗣
※この記事は『サライ』2023年6月号より転載しました。