手に汗握る忍術大河
I:ここで、場面は幽閉された瀬名らに転じます。なんと今川方の勇将岡部元信(演・田中美央)に引っ立てられて今川氏真(演・溝端淳平)のもとに連れて行かれます。
A:氏真役に溝端淳平さんがキャスティングされていたので、これまでの「単なる愚将」と設定されることが多かった氏真像が転換されると思っていたのですが、完全に見誤りました。登場頻度は多いですが、非道な人間に描かれていて、ちょっと残念だったりします。あぁ、氏真復権はいつになるのか。
I:時代考証の小和田先生は「今川で大河を!」と熱望しているようですから、いつかその日が来ますよ。ところで、本編では伊賀の忍び、甲賀の忍びが呉越同舟で鵜殿陣営と戦います。前週に父を失ったばかりの「女大鼠」の活躍も目を引きました。「忍忍大河」もなかなかのものですね。「忍び」の世界がスリリングで手に汗握りました。
A:まさに「影の軍団」という感じでした。ただ、ああいう「女大鼠」の手法は今もあるかもしれないですね。美人局とかハニートラップとか、大国間でも行なわれているともいいますし。きっと現代にも「影の忍術軍団」がいるのかもしれません。
I:もうこのまま忍術軍団の活躍で、瀬名を奪還というところまで振り切ってしまえ! と思った方もいるかもしれませんが、さすがにギアチェンジがありました。
A:そうですね。このまま突っ走ることはしませんでした。本多正信に〈お前などには任せぬ〉と石川数正(演・松重豊)にチェンジというか、「通説」にパトンタッチという「曲芸」が展開されました。
I:これが通説とエンターテインメントとの融合なんですね。さて、鵜殿の子息と瀬名家族の人質交換を試みるわけですが、すんなりとはいきません。氏純(演・渡部篤郎)と巴(演・真矢ミキ)は自分たちの命と引き換えに、瀬名らの助命を嘆願します。
A:こういうやり取りは胸に迫りますね。1987年の『独眼竜政宗』で展開された政宗(演・渡辺謙)の目の前で敵方に捕らわれた父輝宗(演・北大路欣也)が殺害された大河史上屈指の名場面や1994年の『炎立つ 第二部』で藤原清衡(演・村上弘明)の妻子(妻を演じたのは坂本冬美)が清原家衡(演・豊川悦司)によって人質に取られ、清衡が潜伏先から見守る中で、館ごと火をかけられ妻子が殺害されるという場面などを思い出してしまいました。
I:私もドキドキしながら見ていました。川を挟んで対峙した両軍ですが、人質交換がなされました。瀬名の表情にジーンときましたね。氏純らがどうなったかは描かれませんでしたが、どういう設定なのでしょうか。気になりました。
A:諸説ありますからね、ドラマとしてどう描くのでしょう。しかし、今週の女大鼠の活躍などの忍術場面は、毒薬劇薬の類ですね。やはりこういう活劇は単純に面白いです。面白いから続けて見たくなる。ただ、家康が主人公のドラマで毎週毎週活躍の場が与えられるわけではない。登場のバランスを見誤るともやもやしちゃうかもしれないですね。
I:もやもやですか? いやそんなことはないと思います。今後元康には次から次へと難題が襲ってくるまさにジェットコースターのような人生。私は、映画『花より男子 ファイナル』で、牧野つくしとの結婚を発表する道明寺司の貫禄あるふてぶてしい態度がいつ『どうする家康』に降臨してくるのか楽しみにしているのですよ。
A:『花男』! 前年大河の北条義時(演・小栗旬)と本年の徳川家康が共演していたドラマですね。今週も、爪を噛んだり、おなかの調子が悪かったりと、「家康っぽい」しぐさがさりげなく挿入されていました。そろそろ脱皮する合図ではないかと感じました。元康覚醒は、もうすぐかもしれません。
●編集者A:月刊『サライ』元編集者(現・書籍編集)。歴史作家・安部龍太郎氏の『日本はこうしてつくられた3 徳川家康 戦国争乱と王道政治』などを担当。『信長全史』を編集した際に、採算を無視して信長、秀吉、家康を中心に戦国関連の史跡をまとめて取材した。
●ライターI:三河生まれの文科系ライター。月刊『サライ』等で執筆。『サライ』2023年2月号 徳川家康特集の取材・執筆も担当。好きな戦国史跡は「一乗谷朝倉氏遺跡」。猫が好き。
構成/『サライ』歴史班 一乗谷かおり