文/池上信次

チック・コリアの映像作品紹介の続きです。(前回はこちら→https://serai.jp/hobby/1096382)今回はチック・コリア・エレクトリック・バンド(The Chick Corea Elektric Band/以下EKB)。EKBは、ジョン・パティトゥッチ(ベース)、デイヴ・ウェックル(ドラムス)という(当時)若手技巧派をフィーチャーしたトリオ編成でスタートしました(のちにこのトリオはアコースティック・バンドとしても活動)。1985年の春からライヴ活動を始め、86年にファースト・アルバムをリリース。そのバンド名を冠した『ザ・チック・コリア・エレクトリック・バンド』(LP版)冒頭1曲目は3人の演奏、2曲目はそこにギターが加わった演奏に聞こえるのですが、じつはどちらにもベーシストは参加していません。これらは、チックがヤマハのシンセサイザーや、フェアライト、シンクラヴィアといったサンプラーやリンドラムなど当時最新鋭の「エレクトリック楽器」(正確にはエレクトロニックですね)を駆使して作った「打ち込み」トラックに、チックのソロを乗せたものなのでした。よく聴くとドラムスも打ち込み部分がかなり多いので、ほぼチックひとり状態といってもいいくらい。チックはアルバム冒頭で、「エレクトリック」によって最少人数で最大のサウンドを出すというバンドのコンセプトを高らかに宣言したのでした(と思います)。(なお、CDヴァージョンにはイントロ的に1分弱の「シティ・ゲイト」が収録されていますが、当時はまだまだLPが主力だったと記憶します)。

その後、EKBはメンバー・チェンジやそれに伴う改称(エレクトリック・バンドII)を経ながら約10年に渡って活動を続けました。アルバムは6作をリリースしていますが、このほかに映像作品が3作(うち2作は「新作」として)リリースされています(第180回参照→https://serai.jp/hobby/1095604)。


チック・コリア『ザ・チック・コリア・エレクトリック・バンド』(GRP)
演奏:チック・コリア(キーボード)、ジョン・パティトゥッチ(ベース)、デイヴ・ウェックル(ドラムス)、スコット・ヘンダーソン(ギター)、カルロス・リオス(ギター)
発表:1986年
チック・コリアの「バンド」としては、リターン・トゥ・フォーエヴァーに続くもの。1994年ごろまで活動し、その後は2004年に再結成してアルバムを発表しました。

最初の映像作品『エレクトリック・シティ』はバンドの作品としては2作目、デビュー作(以下CD)発表翌年の87年にリリースされています。これを観ると、CDで感じた「コンセプト」は、ちょっと違うんじゃないか? と思わざるを得ませんでした。


ザ・チック・コリア・エレクトリック・バンド『エレクトリック・シティ』(ポリグラム/ポリドール:LD/VHS廃盤)
演奏:チック・コリア(キーボード)、ジョン・パティトゥッチ(ベース)、デイヴ・ウェックル(ドラムス)、スコット・ヘンダーソン(ギター)
収録:1986年5月(ライヴ)
キーボーディストがステージ前面に出てパフォーマンスする、ショルダー・キーボードとMIDIシンセサイザーの時代です。

『エレクトリック・シティ』は86年5月のスペインでのライヴ・ステージに、他の映像を挿入した構成。(映像作品によくある)インタヴューはない、全編音楽の作品です。ステージはというと、ステージだからこそ(CDじゃわかりませんから)「エレクトリック同期もの」が受けそうな気もしますが、それは意外に少なく(ドラマーのヘッドホン装着で判断できます)、むしろ隠しているかのよう。CDではゲスト扱いだったギターのスコット・ヘンダーソンが全曲参加し、ソロ弾きまくりの大活躍。そしてそれ以上にメンバー3人が弾きまくり、叩きまくっています。チックがショルダー・キーボードを構え、ギター、ベースと並んで高速ユニゾンをキメるのはまるでスポーツのよう。クールな「電気仕掛け」ではなく、マッチョな「肉体派」という、CDで受けたのとはまるで逆といってもいいくらいの印象なのです。

そしてそのステージに挿入される映像が、ロンドンの4人組ダンス・チーム「IDCダンサーズ」のパフォーマンス。ダブダブのスーツを着てのブレイクダンスは、当時のUKアシッド・ジャズ・シーンの象徴ですね。「アテ振り」のビデオクリップも挿入され、そこではバンドとダンサーの共演まであります。より「肉体派」を強調するかのようです。

というわけで、そこにいたのは、CDから感じた「最新技術を駆使した〈打ち込み〉とジャズの共演」とはまったく無縁に思えるバンドだったのです。どっちがほんとうの姿かというと、その後のEKBの活動を見れば明らか。どんどん打ち込みからは離れていってますので、「エレクトリック」は、字面どおり電気楽器を積極的に使った(ところがチックとしてはそれまでとは違う)ジャズ・バンドということだったのです(のちにアコースティック・ピアノも解禁してます)。

EKBデビュー作は、この映像作品とCDをセットとしてとらえるのが正解。勝手な深読みは禁物ですね。

文/池上信次
フリーランス編集者・ライター。専門はジャズ。ライターとしては、電子書籍『サブスクで学ぶジャズ史』をシリーズ刊行中。(小学館スクウェア/https://shogakukan-square.jp/studio/jazz)。編集者としては『後藤雅洋著/一生モノのジャズ・ヴォーカル名盤500』(小学館新書)、『ダン・ウーレット著 丸山京子訳/「最高の音」を探して ロン・カーターのジャズと人生』『小川隆夫著/マイルス・デイヴィス大事典』(ともにシンコーミュージック・エンタテイメント)などを手がける。また、鎌倉エフエムのジャズ番組「世界はジャズを求めてる」で、月1回パーソナリティを務めている。

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