座長小栗旬の「好きにやっていいよ」に救われた
I:頼朝役の大泉洋さんの存在感が凄かったので、金子さん自身も葛藤があったのではないかと思います。実際に〈ずっと不安だった。本番中も、これでいいのかな、と思いながらやっていた〉とも話していました。それを救ったのが北条義時役の小栗旬さん。本作の座長ですね。金子さんは小栗さんへの思いをこんなふうに語ってくれました。
〈小栗さんの存在は僕の中で大きかったんだなと改めて思います。リハーサルをしていても、このシーンは全然できなかったなとか、どこか自信をなくしていました。でも、小栗さんに誘って頂いてふたりでご飯に連れて行って頂いた時に、「大地の好きにやっていいよ」と言ってくださったんです。「撮って満足できなかったり、言いづらいことがあったりしたら、俺に言ってくれたら、今のカットもう1回やりたいって俺が現場を止めてでも言ってあげるから、大地の好きにやっていいよ」って。小栗さんは本当に優しくて……嬉しかったです。そんなことを言ってくれださるって、すごいですよね。そこから、もっとぶつかってやっていこうと吹っ切ることができました。小栗さんの優しさに救われました〉
I:なんか、いい話ですよね。劇中では反目しあう義時と頼家ですが、現場のチームワークはがっちりなんですね。
A:現場のこういう話が大好きなんですが、この話は完全に『孫子』の第三篇「謀攻篇」にある「将能而君不御者勝」という名言になぞらえることのできると感じました。〈将の能にして君の御せざる者は勝つ(※)〉。金子さんは知らず知らずのうちに、理想の上司像、理想のリーダー像を語ってくれた形になりました。
I:『孫子』の〈勝ちを知るに五有り〉のうちのひとつですね。とかく細かいことにまで口を出してくるリーダーが多い中で、「好きにやっていいよ」ってフォローしてくれる存在がいるというのは、俄然モチベーションが上がりますね。
A:そして、私たちがもっとも気になっていたことについても語ってもらいました。病気で倒れて、奇跡的に病状が回復したら、本来そばにいてくれているはずの妻や舅など身内が全員討たれていた。この理不尽でメチャクチャなシチュエーションを金子さんはどんな思いで演じたのだろうか、ということです。金子さんはこんなふうに語ってくれました。
〈絶望なのか、怒りなのかよくわからない、頭が真っ白になるような、言葉では表しがたい感情……絶望と怒りと悲しみのような感じでした〉
A:33話では、頼家の感情が爆発します。何度も言いますが、この回は頼家に肩入れしながら視聴してほしいです。だって、頼家ほどひどい仕打ちを受けた征夷大将軍はなかなかいないんですから。
I:32話の母・政子と対峙するシーンの熱い演技にもしびれました。金子さんは撮影現場について〈ものづくりをするすごい熱量があった。それに関われたことがうれしい〉とも語っていました。画面を通じて、現場の熱量も感じてほしいですし、33話は絶好の機会になると思います。
※:現場の将が優秀であれば、君主が戦略に口出しをしなければ勝つことができるの意。
●編集者A:月刊『サライ』元編集者(現・書籍編集)。歴史作家・安部龍太郎氏の『半島をゆく』、鎌倉歴史文化館学芸員の山本みなみ氏の『史伝 北条義時』などを担当。初めて通しで見た大河ドラマが『草燃える』(1979年)。先日、源頼朝のもう一人の弟で高知で討たれた源希義の墓所にお参りした。
●ライターI:ライター。月刊『サライ』等で執筆。『サライ』2022年1月号 鎌倉特集も執筆。好きな鎌倉武士は和田義盛。猫が好き。
構成/『サライ』歴史班 一乗谷かおり