2021.02.28 RISE ELDORADO 2021 横浜アリーナ 志朗戦(写真集『那須川天心 ALL OR NOTHING』)

フォトグラファー長尾迪さんのメインの仕事場は、格闘技のリングサイドだ。

アンディ・フグ、ヒクソン・グレイシー、佐藤ルミナ、桜庭和志、魔裟斗、那須川天心……多くのスター選手の戦いぶりをファインダー越しに見届け、熱い闘いの瞬間を切り取ってきた。
「K―1」などビッグイベントが創設される以前から、30年以上に渡り最前線を走り続けてきた格闘技メディアのトップランナーである。格闘技ファンならば間違いなく、長尾さんの写真を一度は目にしたことがあるだろう。

また現在は、『Number Web』でコラムを連載するなど、写真以外の分野でもマルチに才能を発揮している。

そんな長尾さんにとって、格闘技を取材することの魅力とは何なのか?
6月2日に写真集『那須川天心 ALL OR NOTHING』(小学館)を刊行した長尾さんに、格闘技カメラマンとしての半生を振り返ってもらった。

2022.03.24 TARGET SHIBUYA(写真集『那須川天心 ALL OR NOTHING』)


格闘技カメラマンのキャリアをスタートできた運命の出会い

K-1のスター選手だったアンディ・フグも長尾さんにとって思い出深い格闘家だ。

長尾さんは北海道室蘭市で生まれ育った。地元の高校では写真部に所属。札幌での大学生時代には既に、商業誌でのアルバイトも経験し、卒業後は本格的にプロカメラマンとしての活動を開始した。

「大学でも写真部に所属していたんですが、そのツテで、撮影アルバイトの依頼がたくさんあったんですよ。最初は、運動会や卒業式など学校行事の撮影。その後、現在でいうタウン誌のような媒体からも声がかかり、在学中からどんどん仕事の幅が広がっていった。そんなセミプロの状態になって『ギャラも悪くないし、自分もプロでもやっていけるんじゃないか?』という意識が芽生えはじめました」

その後、20代のとき、カメラを片手に海外へ3年間の撮影旅行に出かけ、帰国後はベースを札幌から東京へ移した。

「心機一転、東京に出てきたからには、自分が一番撮りたいものにチャレンジしてみよう!高校時代に写真部と柔道部を兼務していたこともあり、実は格闘技に興味があったんです。そこで同郷の格闘技ライター布施鋼治さんに、格闘技専門誌『格闘技通信』を紹介してもらい、格闘技カメラマンとしてもキャリアをスタートさせました。幸いにも、当時の谷川貞治編集長に写真を気に入ってもらえて、割とすぐに表紙など大きな仕事も任せられるようになったんです」

長尾さんの存在は、メディアを通して格闘技団体側も知ることとなり、K―1やUFCからオフィシャルカメラマンの依頼が舞い込む。試合の撮影だけでなく、大会パンフレット用のポートレート撮影も担当した。

「当時は、同年代で英語を喋れる格闘技のカメラマンがほとんどいなかったから、重宝されたんだと思います。そういう意味では、3年間の世界巡りが役に立ったわけで、『過去の経験はつながっていくんだなあ』と実感しますね。バックパッカーで安宿に寝泊まりしながら、言語だけでなく、外国人とのコミュニケーションを取る上で大切なことを学べました。ちゃんと言葉にして表現しないと、気持ちは伝わらない。無理な場合は明確にNOと言う。旅で得たそういう経験が、後にスタジオなどで外国人選手を撮影する際には生きましたね」

リングサイドでは「ファイターの表情を捉える」

格闘家のヒクソン・グレイシーとは撮影をきかっけに親交を深める。

一般的に、リングサイドで撮影する格闘技カメラマンには、試合展開がわかるように選手の繰り出す技を的確に抑えるスキルが求められる。ところが、長尾さんの撮る作品は、そんな既存の写真とは一味違っていた。長尾さんはリングサイドでは「ファイターの表情を捉える」ことを常に意識して撮影に臨んでいるという。

「もちろん、大前提として技自体を捉えることは大切です。ただ僕は、それに加えて選手の感情や思いを写真の中に入れ込みたい。だから、パンチがヒットした瞬間よりも、その直後の顔面がグニャッとゆがむ表情とか、これから技を繰り出すぞと眼光が鋭く光る表情とか、そういうシーンを大事に思っています。そういう写真を撮るためには、選手と呼吸を合わせて、次にどういう展開になってどういう技が来るか予測しなければならない。例えば、選手同士の少し距離広がって、一瞬、間が空いたら『あっ、大技が来るな!』とか、そういう予測の精度を上げるためには経験を積むしかないでしょうね」

記事冒頭でも触れたように、長尾さんは数々の名ファイターたちの闘いぶりを長年にわたり眼前で見届けてきた。そんなベテランカメラマンの視点から見て、彼らスター選手たちに共通する要素とは何だろうか。

「やっぱり、良い選手には華がありますね。カリスマ性があるというか、入場シーンから魅せてくれるんですよ。そして、『試合展開を予測しづらい』というのも、強い選手たちの共通点の一つです。逆の言い方をすれば、僕らカメラマンもダマせないようなフェイントに、プロのファイターが引っかかるわけがない(笑)。リングサイドのカメラマンをダマせてこそ、一人前の格闘家とも言えるんじゃないですか?」

格闘技の興行は長丁場に及ぶことが多い。大晦日に行われるイベントなどでは、7、8時間を超えることさえある。その過酷な世界の中で、今年還暦を迎えた長尾さんは、現在もトップランナーとして走り続けている。

「試合の撮影に行く前には必ず、自分の中でのメインイベントを決めるんです。必ずしもプログラム上のメインイベントと重なるわけではありません。その試合に向けて、第1試合から徐々に自分の気持ちを作っていく。先ほど、予測するために選手と呼吸を合わせると言いましたが、思い入れのある選手の試合では、その選手に自分の気持ちが乗り移ったような感覚になるんです。取材者なのであまり態度には出さないようにはしていますが、その選手が勝ったら嬉しいし、負けたら同じように悔しい。毎回そうやって撮影しているので、やっぱり疲れますよ。体力勝負であることは痛感しています。だから、ライフワーク――大好きな格闘技をこれからリングサイドで撮影し続けるために、週に一度パーソナルトレーナーにお願いしてトレーニングをしています。引退してカメラを置くのは、ひとつの興行をフルで取材できなくなった時かなと。もちろん、まだそのつもりはありませんけど(笑)」

c)Keisuke Takazawa

長尾 迪(ながお・すすむ)
1962年、北海道出身。写真家。日本写真家協会(JPS)会員。UFCやK-1ではオフィシャル・フォトグラファーを務めた、格闘技写真の草分け。著作には『アルティメット』(小学館)、『格闘写真集 FIGHTS』(双葉社)、『那須川天心 フォトブック FLY HIGH』(双葉社)、『初見良昭コレクション忍者刀』(クエスト)など。海外での評価も高く、ブラジルやフランスでも写真集をリリース。2017年1月から、撮影スタジオ『studio f-1 成城』を都内に開設。また「Number Web」にて、ファインダーを通して格闘技を見続けてきた記録を、写真とコラムとして連載中。

取材・文/田中周治 写真/長尾 迪

6月19日の試合を最後に引退するキックボクサー那須川天心メモリアル写真集『那須川天心 ALL OR NOTHING』発売!!

2014年のプロデビューから2022年4月のキックボクシングの試合までの軌跡を一冊に。試合の写真はもちろん、新たな撮り下ろしカットを加え、キックボクシング時代の那須川天心選手の魅力満載の写真集です。

『那須川天心 ALL OR NOTHING』
著/那須川天心 著・写真/長尾 迪 発行/小学館
定価4,180円(税込) 菊倍判・160頁

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