日本全国で進められている発掘調査や木簡などの出土文字資料によって、日本古代史像は日々変貌していきます。
駒澤大学文学部歴史学教授・瀧音能之さんが監修した『新発見でここまでわかった! 日本の古代史』(宝島社)から、最新の調査や研究発表を基に、これまでの常識を覆す「古代日本像」を紹介します。

監修/瀧音能之

朝廷に仕えた武官が地方で勢力を拡げる

中世の主役である武士の登場については諸説あり、研究者の間でも意見が分かれている。従来あるのは、地方の豪族や有力農民が自衛のために武装し、武士化したという説。都の軟弱な貴族に対し、東国武士は質実剛健(しつじつごうけん)で勇ましく、鎌倉で初めての武家政権が誕生したというのが、昔の教科書や歴史ドラマが描く武士像だった。

しかし、近年はそうした史観に一石が投じられている。初期の武士は宮廷社会の一員であり、東国など地方に派遣されてそのまま土着して武士化したという見方が提起されている。平成19年(2007)に平氏政権を最初の武家政権とする論を発表した高橋昌明(まさあき)・神戸大学名誉教授は、「武士の始まりは朝廷警護の近衛府(このえふ)などの武官」と論じる。征夷大将軍の坂上田村麻呂(さかのうえのたむらまろ)は蝦夷(えみし) 討伐で名を馳せたが、「武官」であって「武士」ではなかったといわれる。

また、高橋氏は「武芸は遊戯(ゆうぎ)や美術、和歌といった芸能の一種で、和歌で朝廷に仕えた公家がいるように、武芸で仕えた者たちもいた」と述べている。そのなかでも、桓武(かんむ)天皇の血を引く桓武平氏、清和(せいわ)天皇の末裔である清和源氏、藤原氏の傍流(ぼうりゅう)などが地方に赴き、在地して経済基盤を築いた。武士の第1世代としては平高望(たかもち)や源経基(つねもと)、藤原秀郷(ひでさと)などが挙げられるが、彼らは朝廷から位階を授かったので「軍事貴族」とも呼ばれる。

平清盛が築き上げた最初の武家政権

武士が台頭した最初の契機は、平将門や藤原純友(すみとも)が起こした承平(じょうへい)・天慶(てんぎょう)の乱である。鎮圧で功を挙げた者たちの家系が「兵(つわもの)の家」として認知されるようになり、独自の武装集団を形成した。

坂東といえば源氏のイメージがあるが、最初に根を張ったのは桓武平氏だった。北条時政(ときまさ)や梶原景時(かじわらかげとき)、三浦義澄(よしずみ)といった源頼朝を支えた御家人も、土着した地名を名字にしているが、本姓は平である。庶流の者たちは国の下級役人を辞し、地方の荘官(しょうかん)になるなどして勢力を築いた。

平安時代後期には平正盛(まさもり)・忠盛(ただもり)父子が荘園寄進を通じて朝廷に進出し、西国の受領(ずりょう)に任じられて西日本を中心に勢力を拡げた。中央政界でも武士の存在は無視できなくなり、院政を開始した白河上皇は武士たちを北面(ほくめん)の武士や検非違使(けびいし)に任命し、院の警備などを任せた。これによって武士と中央政界のつながりはさらに深くなり、皇室や摂関家の内部対立から起きた保元(ほうげん)の乱で活躍した。

続く平治(へいじ)の乱で勝利した清盛は多くの荘園や知行国(ちぎょうこく)をたくわえ、全盛を築いた。近年、この平氏政権が最初の武家政権であるという見方が一般的になっており、平氏の本拠である六波羅(ろくはら)にちなんで「六波羅幕府」と呼ぶ研究者もいる。平氏政権は傘下の武士団を地方官に任じて地方の支配強化をはかるなど、鎌倉幕府の守護・地頭設置に先んじた試みを行っていた。

出典:『新発見でここまでわかった! 日本の古代史』(宝島社)

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瀧音能之(たきおと・よしゆき)
1953年生まれ。駒澤大学文学部歴史学科教授。著書・監修書に『出雲古代史論攷』(岩田書院)、『図説 出雲の神々と古代日本の謎』(青春出版社)、別冊宝島『古代史再検証 蘇我氏とは何か』『日本の古代史 飛鳥の謎を旅する』『ビジュアル版 奈良1300年地図帳』『完全図解 日本の古代史』『完全図解 邪馬台国と卑弥呼』、宝島SUGOI文庫『日本古代史の謎』、TJMOOK『最新学説で読み解く 日本の古代史』、TJMOOK『日本の古代史 発掘・研究最前線』(すべて宝島社)など多数。

 

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