日本全国で進められている発掘調査や木簡などの出土文字資料によって、日本古代史像は日々変貌していきます。
駒澤大学文学部歴史学教授・瀧音能之さんが監修した『新発見でここまでわかった! 日本の古代史』(宝島社)から、最新の調査や研究発表を基に、これまでの常識を覆す「古代日本像」を紹介します。

監修/瀧音能之

天皇家の外戚(がいせき)として確固たる地位を築く

奈良時代以降、明治維新に至るまで千年の繁栄を遂げた藤原氏。家祖は天智天皇の側近・中臣鎌足だが、土台を作ったのは子の不比等(ふひと)である。持統(じとう)天皇の信頼を得て出世し、天皇家の外戚となって確固たる地位を築いた。これは古代の葛城(かつらぎ)氏や蘇我(そが)氏と同じやり方である。

また、ライバルの台頭を防ぐため、巧妙な手口で追い落とすのも藤原氏の“お家芸”であった。7世紀後半には古くからの豪族も高い地位にいたが、いつしか藤原氏が高官を占めるようになった。奈良時代には長屋王(ながやおう)、橘諸兄(たちばなのもろえ)などが政治の実権を握ることもあったが、結局は藤原氏が政権を奪い取っている。何代にもわたって権力闘争を勝ち抜くことができたのは、藤原氏がそういった戦いに勝つためのノウハウを蓄積させ、帝王学として受け継がれていたからなのかもしれない。

藤原不比等は大宝律令(たいほうりつりょう)の制定や平城京遷都にかかわるなど、律令国家の構築に貢献している。養老(ようろう)4年(720)に完成した『日本書紀』は日本に伝存する最古の正史だが、その編纂にも携わっている。天武天皇の子である舎人(とねり)親王、『古事記』を編纂した太安万侶(おおのやすま)らの下で完成したが、権力者が真実を隠すために印象操作をしようとした“痕跡”も見えてくる。その黒幕とされるのが不比等で、父の鎌足を英雄にするために蘇我氏を悪役にしたという疑惑がある。

『日本書紀』以外の六国史(りっこくし)
出典:『新発見でここまでわかった! 日本の古代史』(宝島社)

悪人として描かれた『日本書紀』の蘇我氏

実際、『日本書紀』には蘇我氏を貶めるための記述があり、これが長らく「蘇我氏=悪役」の印象を植えつけることになった。『日本書紀』における蘇我氏は、大王(おおきみ)家をしのぐ権勢を背景に、傍若無人な振る舞いをしていた。蘇我蝦夷(えみし)は天子だけの特権である「祖廟(おやのまつりや)」を建て、上宮(じょうぐう)王家(聖徳太子の一族)の私民を勝手に使役して墓を造営したという。専横をきわめて皇位簒奪すら狙っていたので、中大兄皇子や中臣鎌足が蝦夷の子・入鹿(いるか)を誅殺して蝦夷を自殺に追い込んだ(乙巳(いっし)の変)。

この記述だけなら、蝦夷・入鹿父子は「大悪人」で、鎌足らは「正義」となる。しかし、入鹿の悪行を伝える記述は、『史記』や『論語』といった中国文献から拝借した脚色が目立つ。入鹿の暗殺も鎌足らによる義挙ではなく、権力闘争の末の暗殺劇だった可能性があるのだ。

『日本書紀』では悪役扱いされている蘇我氏だが、実際は王権直轄領である屯倉(みやけ)の整備に貢献するなど、王権の勢力拡大に大きく貢献した功労者だった。そのため、「本当は蘇我氏が国政改革の旗振り役で、中大兄皇子や中臣鎌足はそれを潰した反動勢力だった」という見直し論まである。最新の発掘調査や研究によって蘇我氏を再評価する動きも高まっており、古代史の常識は着実に塗り替えられつつある。

藤原氏の系図 
出典:『新発見でここまでわかった! 日本の古代史』(宝島社)

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瀧音能之(たきおと・よしゆき)
1953年生まれ。駒澤大学文学部歴史学科教授。著書・監修書に『出雲古代史論攷』(岩田書院)、『図説 出雲の神々と古代日本の謎』(青春出版社)、別冊宝島『古代史再検証 蘇我氏とは何か』『日本の古代史 飛鳥の謎を旅する』『ビジュアル版 奈良1300年地図帳』『完全図解 日本の古代史』『完全図解 邪馬台国と卑弥呼』、宝島SUGOI文庫『日本古代史の謎』、TJMOOK『最新学説で読み解く 日本の古代史』、TJMOOK『日本の古代史 発掘・研究最前線』(すべて宝島社)など多数。

 

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