文・絵/牧野良幸

千葉真一さんが8月に亡くなった。新型コロナウイルスによる肺炎だったという。享年82歳。アクション・スターとして輝かしい人生を歩んできた千葉真一さんだけに訃報には驚いた。謹んでお悔やみを申し上げます。

今回は千葉進一さんが出演した『柳生一族の陰謀』を取り上げる。監督は深作欣二。1978年(昭和53年)に公開された映画で、これが深作欣二にとって初の時代劇作品だった。そして千葉真一にとっても本格的な時代劇への出演となる。

千葉真一というと、僕と同じ世代ならほとんどの方が『キイハンター』を思い浮かべるだろう。1968年(昭和43年)から放送されたテレビドラマだ。

その時僕は小学五年生。アニメや怪獣の特撮番組を見る一方で、大人向けの番組にもチャンネルを合わせる年頃だ。夏の怪談物が怖かった『ザ・ガードマン』や、お色気が目当ての『プレイガール』などがあったが、なかでも『キイハンター』は圧倒的に人気で子どもの間でもブームになった。

テレビっ子を自認していた僕も、千葉真一のようなアクション・スターは初めてだった。それまでテレビの中の戦いといえば殴り合いか武器を使った戦闘だった。そこに体をはったアクションが登場したのだ。

もっとも千葉真一の映画デビューは早く、1959年(昭和34年)に東映に入社している。1961年には早くも深作欣二監督の作品に出ているから『キイハンター』以前のキャリアは長い。

千葉真一は『キイハンター』以後、アクション・スターとして華々しく活動する。数々の格闘映画に出演、Sonny Chibaという名前でアメリカにも進出した。当時の日本人にとっては夢のような話だ。

こうしてアクション・スターとして活躍した千葉真一だが、アクション以外の分野にも出演をしていく。実を言うと僕はそちらの映画の方が印象深い。

例えば連載でも取り上げた『新幹線大爆破』(1975年)での新幹線の運転士や、『戦国自衛隊』(1979年)での隊長などだ。いずれも正義感にあふれた人物を演じた。真逆の役柄もある。『仁義なき戦い 広島死闘篇』(1973年)では底抜けに柄の悪いヤクザを演じた。

そして今回取り上げる『柳生一族の陰謀』である。最初に書いたように千葉真一が本格的に時代劇に進出した作品だ。

ストーリーは徳川二代将軍秀忠の死去による幕府のお家騒動を描く。といっても『仁義なき戦い』の深作欣二が脚本に関わり監督もしただけあって、お家騒動というより抗争といった方がふさわしい。武士が策略を練って仁義なき戦いをする、新しい時代劇である。

秀忠は毒殺されたのだった。殺したのは長男家光(松方弘樹)の配下だ。家光はそれを知らなかったが、知ったあとは将軍職への野望を持つ。ライバルは次男の忠長(西郷輝彦)である。

将軍家指南役をつとめていた柳生新陰流の柳生但馬守(萬屋錦之介)も、この陰謀に深く関わっていた。というよりも陰でこの抗争劇を操っているのが柳生但馬守だ。萬屋錦之介の言い回しは歌舞伎調で、この世のものとも思えぬ妖しさがある。

千葉真一が演じるのはその息子、柳生十兵衛だ。

十兵衛は出世には興味がなく、城には寄り付かなかった。全国を修行してまわり、また一族の里を再び持とうと願う根来衆(ねごろしゅう)の面倒を見ていた。十兵衛も根来衆も、柳生但馬守のたくらみに気づかず、家光の将軍職実現に向けて協力するのだったが。

映画は三船敏郎、丹波哲郎、山田五十鈴、大原麗子など大物俳優、さらに真田広之や志穂美悦子など若手アクション・スターが登場する。まさにオール・スター・キャストを動かしてぐつぐつと煮込んでいくところが深作欣二らしいのだが、この抗争に決着をつけるのは十兵衛以外にはない。

十兵衛は最愛の根来衆を口封じのために惨殺した父、柳生但馬守と袂を分かつ。衝撃的なラスト・シーンは、まさに千葉真一でなくてはつとまらない役と言えよう。

実を言うと僕は千葉真一の声が好きだ。あの温かみのある声を聞くと心がなごむのである。熱く燃える目もいい。根来衆のような不遇な人たちを見守るまなざしは暖かい。十兵衛は千葉真一の当たり役となり、以後も『魔界転生』などの映画が作られた。

千葉真一のようなアクションをこなし、役者としても深みのある俳優はもう出ないだろう。あらためて千葉真一さんのご冥福をお祈りします。

【今日の面白すぎる日本映画】
『 柳生一族の陰謀』
1978年
上映時間:130分
配給:東映
監督:深作欣二
脚本:野上龍雄、松田寛夫、深作欣二
出演者:千葉真一、萬屋錦之介、松方弘樹、西郷輝彦、山田五十鈴、大原麗子、丹波哲郎、三船敏郎、ほか
音楽:津島利章

文・絵/牧野良幸
1958年 愛知県岡崎市生まれ。イラストレーター、版画家。音楽や映画のイラストエッセイも手がける。著書に『僕の音盤青春記』 『少年マッキー 僕の昭和少年記 1958-1970』、『オーディオ小僧のアナログ放浪記』などがある。ホームページ http://mackie.jp

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