文/鈴木拓也

50歳頃から低下する認知機能を維持し、長く運転できるための秘訣とは|『運転寿命を延ばす 50代からの安全運転の心得』

しばしば報道されるように、高齢ドライバーが引き起こす悲惨な交通事故が後を絶たない。
だが、報道を見て、「そういう事故を起こすのは、お年寄りの認知症ドライバーだけ。自分は大丈夫」と思っているのは、危ういかもしれない。なぜから、認知に関わる諸機能は、50歳頃から低下し始めているからだ。

そう警鐘を鳴らすのは、高齢者講習予備校などを運営する(株)ナンバメイト代表取締役の時野学さんだ。時野さんは、「なるべく多くの人が運転卒業時まで事故ゼロを実現する社会をつくること」を最大の課題とし、事業に取り組んでいるが、高齢になる前に対策を講じる必要性を常々痛感しているという。その取り組みの一環として、著書『運転寿命を延ばす 50代からの安全運転の心得』を上梓。心身ともまだ元気なうちから、とっておきたい対策を記している。
もう若くはないが、さりとて高齢者ではない人向けの秘訣のなかから、幾つかを紹介しよう。

■補償運転を励行する

加齢により衰えゆく能力を若い頃まで戻すというのは、正直難しい。
そこで時野さんが提唱するのが、「補償運転」だ。これは端的に言うと、衰えた能力に合わせて、運転の難易度を下げるなどして余裕を持たせるやり方。
例えば、「運転する状況を選ぶ」。視力の衰えに不安があるなら、夕方以降や雨の日は運転しない。注意力に不安があるなら、子どもの登下校時の運転は避ける、というふうに低下した能力に照らして運転する時・場所を選ぶ。
また、睡眠をきちんととり集中力を高めるなど、今ある能力が十分発揮できるよう「最適化」をはかるのも大事だという。

■疲労のサインを見逃さない

肉体労働やスポーツと比べると、運転中の身体の負担は微々たるもの。それなのに、長時間運転していると疲労感が出るのは、「脳の疲労」が原因だという。
時野さんによれば、疲労の元になるのは「疲労因子」。身体活動や心的ストレスは、細胞の中で活性酸素を発生させ、細胞を傷つけてしまう。傷ついた細胞は老廃物を排出するが、それに反応して疲労因子が発生し、脳が疲労と認識するという仕組みがある。
若い頃は、疲労因子を打ち消す「疲労回復物質」が分泌されるが、加齢によって分泌量は減る。年をとると疲れがなかなか抜けなくなるのは、このせい。
時野さんは、運転中の疲労因子蓄積を避ける6つの方法を提示している。例えば、以下の方法がある。

・正しい運転姿勢を確保:誤った姿勢で運転すると疲労しやすい。そのため、正しい姿勢でハンドルを握って運転することが重要となる。具体的には、尻とシートの間にすき間ができないよう、深く腰掛ける。ハンドルは回しやすいようにひじを軽く曲げ、体の中心にハンドルの中心を合わせる…というふうに、乗る時点で適切な姿勢をとるよう留意しておく。

・脳を適度に刺激:脳は偏った使い方をすると、すぐに飽きを感じてしまうが、これも疲労蓄積のサイン。そこで、運転以外の刺激を与えることが重要になる。一例として、好きな音楽をかけると、脳内の聴覚を司る部分が活性化し、飽きを抑えることができる。

■日常生活にアロマを取り入れる

意外にも、アロマ(芳香)は認知機能の低下を防ぐ、有効な一手段だという。
アルツハイマー型認知症では、脳内の記憶を司る海馬が衰えるが、その前に嗅覚が衰える。日常生活で良いにおいが少なくなることは、大脳辺縁系が受ける刺激が減少すること意味するが、このことが認知機能の低下と深い関係があることが示唆されている。
時野さんは、アロマによってにおいを感知する神経を刺激すると、海馬周辺への刺激が増え、認知機能が改善されるとしている。

アロマに使用する精油も様々な種類・香りがあり、効能も異なるため、TPOに合わせて使い分ける必要がある。本書で提案されているのは、2種類のアロマを使うもので、ローズマリーカンファーとレモンを2対1でブレンドしたものを朝に2時間以上使い、就寝前には真正ラベンダーとスイートオレンジを2対1でブレンドしたものを使う。日中はしっかり覚醒させ、夜はリラックス効果を深めて寝つきをよくし、運転時の疲労蓄積を緩和するのに役立つ。

*  *  *

高齢になったら免許返納を考えるのが、世の趨勢になっているが、時野さんは、「運転をやめると要介護状態になるリスクが8倍に上昇」する点を指摘。車が唯一の移動手段という人は、それを奪われると心身ともに急速に衰えてしまうのだ。「人生100年」という時代を迎えようとするなか、最終的に運転を卒業することになっても、それまではきびきびした運転で移動する楽しみは保ちたいもの。本書は、そのための良い手引きとなってくれるはずだ。

【今日の健康に良い1冊】
『運転寿命を延ばす 50代からの安全運転の心得』

https://www.amazon.co.jp/dp/4344923251

(時野学著、本体1400円+税、幻冬舎)

『運転寿命を延ばす 50代からの安全運転の心得』
文/鈴木拓也
老舗翻訳会社役員を退任後、フリーライター兼ボードゲーム制作者となる。趣味は散歩で、関西の神社仏閣を巡り歩いたり、南国の海辺をひたすら散策するなど、方々に出没している。

 

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