文/鈴木拓也

災害時にシニアに脅威となる災害関連死を防ぐには|『シニアのための防災手帖』

大規模な自然災害で一番犠牲が多いのはシニア層で、例えば東日本大震災や西日本豪雨で亡くなった人の約7割が60歳以上だという。

また、瓦礫の下敷きになったり、津波に飲まれるといった「災害直接死」だけでなく、避難先での体調悪化などによる「災害関連死」が多いのもこの年代だ。例を挙げると、3年前に起きた熊本地震では、災害直接死が50人に対して、災害関連死は217人。70歳以上がその8割を占めている。そのため、これからも起きるであろう自然災害で、いかに高齢者を救うかが、災害大国日本の喫緊の課題となっている。

ところで、災害対策といえば「行政の役割」と思われがちだが、大規模なものだと、行政が即応できることは限られる。そこで、重要になるのが「自助」。
「“誰かが助けてくれる”という考えは捨てること。自分で守る、周囲で助ける」の精神で備えよと説くのは、書籍『シニアのための防災手帖』の監修を務めた三平洵さん(一般社団法人地域防災支援協会 代表理事)だ。

三平さんは本書の中で、事前の準備、災害が発生した時の対応、被災後の生活を中心に、シニア層が個人でできる防災を多角的に解説。家具の地震対策や食料の備蓄など、類書でも語られていることは押さえつつ、シニアが特に気を付けるべき、避難生活時の健康管理にも紙面を割かれていて興味深い。今回はそのあたりを紹介しよう。

■脱水対策は極めて重要

意外にも、災害関連死の原因の8割は、脱水症状が引き金となっている。
慣れぬ避難先で食欲が落ちると、水分も摂らなくなり、知らず脱水症状になるリスクは大きく、これは夏場に限らない。

かといって、水ばかり飲んでいるのも、以下の理由から逆効果だという。

食事が不足している時は、ナトリウムを含むミネラルも不足するため、体液の濃度が薄くなります。そこに真水ばかりが入ると、体液がさらに希釈され脱水状態が悪化することに。
(本書85Pより)

その対策としてすすめられるのが、経口補水液。スポーツドリンクと比べて、塩分が高め、糖分が少なめになっているのが特徴で、ドリンクタイプのほか、ゼリーやパウダーのものが販売されているので、好みのタイプを備蓄しておく。塩飴や梅干しでもよいという。

■努めて温かい食事を摂る

災害時の食といえば非常食というイメージがあるかもしれないが、温かい食事の方が望ましいという。その理由は、冷えた食べ物は免疫力を低下させ、感染症にかかりやすくなる、というのが1つ。

また、熱によって殺菌されていること、そして心が落ち着くという精神的な面も見逃せない。
本書では、電気・ガスは使えない可能性を前提に、水を注いで使う発熱剤やカセットコンロを備蓄しておくようアドバイスされている。

■感染リスクは極力抑える

高齢者にとって感染症罹患は、時には生死にかかわる問題になる。車中泊をする車内や避難所は、衛生的とは言い難い環境のこともあるので、感染リスクはミニマムに抑えるのが肝心だ。
本書では、接触感染を防ぐために、以下4つの留意点が記されている。

・タオルは自分専用に:タオルの貸し借りは厳禁。手を介した感染以外にも、顔を拭くことで結膜炎の恐れも。
・食べ物に注意する:十分に加熱されていない食品、封を開けてから時間の経過した食品などは口にしないこと。
・除湿を心がける:毛布や布団などが不衛生だと細菌が繁殖。晴れの日に天日干しするなど、できる工夫を。
・埃に注意する:倒壊した建物の粉じんや下水で汚染された埃も危険。なるべく埃の中に身を置かないこと。
(本書89pより)

一方、飛沫感染の防止に役立つのがサージカルマスク。もったいないからと連日装用せず、使い捨てが鉄則となる。さらに、口内の細菌が増殖して肺炎にかからないよう、歯磨きはしっかり行う(本書には少ない水で歯を磨く方法が説明されている)。

■被災生活中も適度な運動を

中越地震や熊本地震の時は、過密状態の避難所暮らしや車中泊のせいで、エコノミークラス症候群にかかる人が目立ったという。そうでなくとも、被災生活の間は座りっぱなしで無為に過ごしてしまうシニアが増えるが、動かないのは良くない。

本書では「体操やストレッチを行う」、「眠る時は足の位置を上げる」などが励行され、リハビリ中であればそれを継続するよう求められている。

くわえて、日常においても「いざという時に逃げることができる丈夫な足」を維持するため、1日30分のウォーキングやタンパク質の不足しない食生活などが指南されている。

*  *  *

停電が何日も続いた、昨年の北海道胆振東部地震では、筆者自身も準備のなさを痛感したが、災害は起きてから何かをするのでは手遅れ。本書を参考に、シニアの防災対策を整えていこう。

【今日の健康に良い1冊】
『シニアのための防災手帖』

https://www.shc.co.jp/book/10601

(三平洵監修、本体1,300円+税、産業編集センター)

『シニアのための防災手帖』
文/鈴木拓也
老舗翻訳会社役員を退任後、フリーライター兼ボードゲーム制作者となる。趣味は散歩で、関西の神社仏閣を巡り歩いたり、南国の海辺をひたすら散策するなど、方々に出没している。

 

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