文/中村康宏
日差しが強い季節がやってきました。入念に紫外線対策を行なっている人や、夏に向けてダイエットに励んでいる方も多いでしょう。しかし、そのような行動はビタミンD不足の危険があることをご存知でしょうか?
近年の研究で、ビタミンDは骨の健康や免疫機能の維持・増進だけでなく、糖尿病やがん、心臓病など生活習慣病の進展にも大きく関与していることがわかっています。つまり、ビタミンD不足になるとカゼをひきやすくなったり、健康を大きく害することになるのです。そこで、今回はビタミンDの働きと補い方について解説します。
■ビタミンDが不足すると
ビタミンD欠乏症は骨粗鬆症、骨折の原因となることは一般的に知られています。ビタミンDは骨を作ったり、カルシウムの吸収をコントロールする“シグナル”のように作用し、小腸、腎臓、副甲状腺、骨などに働きかけます。
しかし、ビタミンDの効果は骨の健康だけではないのです。ビタミンDのシグナルを受け取る「ビタミンD受容体」は心臓、血管、筋肉、内分泌臓器、免疫臓器、肝臓、脳など全身に存在することが近年の研究で明らかとなってきました。そのため、ビタミンDが不足すると、2型糖尿病や心臓病、高血圧、がん、感染、自己免疫疾患などの発症リスクを上昇させると報告されています。(*1)
■ビタミンDの種類:サプリと医薬品の違い
ビタミンDにはいくつか種類がありますが、活性が低いものを除くと、一般的には高い生理活性を示す“ビタミンD2”と“ビタミンD3”の2つに大別されます。(*2)ビタミンD2は、キノコなどの植物性食品に含まれています。一方、ビタミンD3は魚などの動物性食品に含まれています。分類上、ビタミンD2とD3とに区別されていますが、これらは体内で同様に代謝されるので、栄養学的には両者を区別せず「ビタミンD」として考えて問題ありません。食事やサプリから摂取したビタミンDは、体内に入ると「活性型ビタミンD3」という物質に変換され、ビタミンDの効果を発揮します。
一方、医薬品のビタミンDは「活性型ビタミンD3」と呼ばれ、もともとビタミンDの効果を発揮できる状態で摂取します。これは、ごく少量で効果が発揮されるため、天然のビタミンDと比較すると摂取量は1/100程度になります。
■特に女性と高齢者は注意! ビタミンDは最も不足しやすい栄養素
ビタミンD欠乏症やビタミン不足は極めて一般的な病態です。7,500 名を対象にした国際的な調査では、全体の 4.1%がビタミンD欠乏症、24.3%が ビタミンD不足であったことが報告されています。(*3)
ビタミンDが不足しやすい原因は大きく分けて2つ。一つは、外食やコンビニなどの食事が増えたり、美への意識向上によるダイエットや偏食など、栄養バランスの偏りで、食事からのビタミンDが不足してしまいます。
もう一つの原因は、日光に当たらないことです。通常、皮膚の皮下脂肪に含まれるコレステロールに日光が当たると、化学反応が起こり、ビタミンDがつくられます。(*4)しかし、過度な紫外線対策を行なっていると、ビタミンDが不足すると言われています。また、高齢者の場合、入院や介護が必要な状態、また長期療養施設での暮らしなど、屋外で過ごす時間が減る傾向があり、そのため日光を十分に浴びていないことがあります。さらに、日光を浴びても、皮膚のビタミンD生成能力が落ち、ビタミンDのサプリメントを摂取していても、欠乏症になってしまうこともあります。
■太陽光とサプリの重要性
ビタミンD不足を自覚した、ビタミンDを多く含む食べ物をたくさん食べよう! と考えるのが、一番身近な解決方法に思われます。しかし、サケ、肝油、ビタミンD強化食品などを除けば、食品中に含まれるビタミンDは非常に少ないため、ヒトは、必要なビタミンDのほとんどを自分の身体で合成する必要があるのです。(*4)つまり、 ビタミンDの合成を皮膚で行うために、紫外線にさらされる必要があるのです! 臨床検討では1年間晴れた日に1日15分間屋外生活するだけで、ビタミンD不足の改善、筋力向上、転倒頻度の減少、さらに骨折の低下が認められたとの報告があります。(*5)
しかし、紫外線は光老化を招き、シミシワの原因となります。また、上記の理由から物理的に日光曝露が制限される方もいるでしょう。そのような場合には、ビタミンD補充が必要になりますが、医薬品の「活性型ビタミンD3」を用いる必要はなく、サプリメントなどの天然型ビタミンDで十分なのです。厚生労働省が策定した「日本人の食事摂取基準(2005 年版)」(*4、6)では、ビタミン Dの摂取基準を 15 歳以上、一律1日200単位としています。高齢者や日光曝露が少ない人は 1日 400-800単位程度摂取することが必要となります。(*4)
以上、ビタミンD不足と不足しやすい人について解説しました。偏食やダイエット、過度な紫外線対策や昼夜逆転した生活などがビタミンD不足の原因となります。ビタミンDは骨の健康や免疫機能の維持・増進だけでなく、糖尿病やがん、心臓病など生活習慣病の進展にも大きく関与していることがわかっています。意識して太陽光を少しでも浴びる、またはビタミンD不足にならないようにサプリなどでこまめに補うようにしたいものです。
【参考文献】
1.ビタミン 1997: 71; 259-60
2.University of California, Riverside
3.J Clin Endocrinol Metab 2001: 86; 1212-21
4.日内会誌 2007: 96; 742-7
5.J Bone Miner Res 2005: 20; 1327-33
6.厚生労働省策定日本人の食事摂取基準 2005
文/中村康宏
医師。虎の門中村康宏クリニック院長。アメリカ公衆衛生学修士。関西医科大学卒業後、虎の門病院で勤務。予防の必要性を痛感し、アメリカ・ニューヨークへ留学。予防サービスが充実したクリニック等での研修を通して予防医療の最前線を学ぶ。また、米大学院で予防医療の研究に従事。同公衆衛生修士課程修了。帰国後、日本初のアメリカ抗加齢学会施設認定を受けた「虎の門中村康宏クリニック」にて院長。一般内科診療から健康増進・アンチエイジング医療までの幅広い医療を、予防的観点から提供している。
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