取材・文/坂口鈴香
平成29年の高齢社会白書によれば、65歳以上の高齢者の事故の77%が住宅内で起きている。しかも20歳以上65歳未満の人よりも住宅内での事故発生率は高いのだ。
高齢者にとって、家の中の危険を減らすと言えば「バリアフリー」と考える人が多いだろう。
「バリアフリー」とは、「段差をなくす」「手すりをつける」と思い込んでいるかもしれないが、こうした改修工事がすべてではない。その前にできることはたくさんある。まずは、家の中の危険箇所を知ることだ。
家の中に潜む危険箇所とは? そしてその対策とは? 理学療法士で高齢者生活福祉研究所所長の加島守氏にお話を聞いた。
■家の中の「ココが危ない!」
●床
コード類が床を這っていたり、新聞やチラシを床に置いたりしていませんか?
じゅうたんやマット、コタツ布団も同様です。高齢になると、ほんのわずかな段差でも足が引っかかってつまずく原因になります。
和室も要注意! 廊下や台所より和室の方が数センチ高くなっていることが多く、和室に入るとき、畳の目に沿って滑ることもあります。
●階段
階段の上に物を置いていませんか? 特にらせん状になっている回り階段の場合、階段の外側に物を置いていると、足の踏み場が少なくなり、踏み外す原因になります。
手すりに物をかけていませんか? 建築基準法改正により、新築物件は階段の手すりが義務付けられていますが、その手すりに物をかけると手すりとしての役目をはたしてくれません。
洗濯物などを持って降りるとき、足元は見えていますか?
●浴槽
浴槽のふちや手すりは、濡れた手で握ると滑ることがあります。
浴槽内の底も滑りやすくなっています。
●家具
手すりがわりに家具や棚を伝って歩いている高齢者は多いですが、その家具が不安定だったり、ぐらついていたりすると、バランスを崩して転倒することがあります。
●玄関
靴を脱ぎ履きするとき、段差が大きいと、ふらついて転倒の原因になります。
■危険箇所にはこんな対策を
●床
コード類はケーブルボックスなどを使って、まとめておきましょう。
チラシや新聞は床に置かず、テーブルの上か専用のボックスに。
じゅうたんやマットは、端が浮かないように止めるか、下に滑り止めのマットを敷きましょう。
●階段
階段には物を置かない、手すりには物をかけないようにしましょう。
階段にはできるだけ前面に滑り止めマットを貼り、夜は足もと照明をつけましょう。
●浴槽
浴槽のふちや手すりには、滑り止めを貼りましょう。
浴槽の底には、滑り止めマットを敷きましょう。
吸盤タイプでは、浴槽にお湯を張っていないときに吸盤をつぶさないと浮き上がってしまいます。お湯を張った状態でも自分の重みで沈み込むタイプの方がおすすめです。
●家具
家具や棚がぐらついていないか、定期的に点検をしましょう。
●玄関
靴を脱ぎ履きするときに座れるイスや式台を置きましょう。
靴を履くときの靴ベラが脱ぐことに使えるものもあります。
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今回は、家の中の危険箇所と危険を減らす対策をご紹介した。
若いころは、足を滑らせたり、何かにつまずいたりしても態勢を立て直すことができる。ところが、高齢になると筋力やバランス感覚が低下し、そのまま転倒してしまうことになる。ヒヤリとした経験のある読者も多いのではないだろうか。骨折や、悪くするともっと大きな事故につながりかねない。
大事になる前に、危険箇所をチェックして、家の中の環境整備をしておくことが高齢者の事故防止対策の第一歩なのだ。
談/加島守 先生
1980年、医療ソーシャルワーカーとして勤務後、理学療法士資格取得。越谷市立病院、武蔵野市立高齢者総合センター補助器具センター勤務を経て2004年10月に高齢者生活福祉研究所設立、所長
取材・文/坂口鈴香
終の棲家や高齢の親と家族の関係などに関する記事を中心に執筆する“終活ライター”。訪問した施設は100か所以上。20年ほど前に親を呼び寄せ、母を見送った経験から、人生の終末期や家族の思いなどについて探求している。