取材・文/坂口鈴香
「生まれたときは4本足。年を取ったら3本足。それは何?」
冒頭からなぞなぞで恐縮です。ご存知の方も多いと思うが、答えは「人間」。赤ん坊はハイハイをし、年を取ると杖をつく、というのが種明かしだ。
年を取った人間にとって、3本目の足となるのが杖だ。といっても、自分の足のように使いこなすのは、思いのほかむずかしい。
「杖を使うにも、練習が必要だった」という、高齢者の声も聞く。ましてや、どちらかの足が不自由だったりすると、コツをつかむのはさらにむずかしくなる。
そこで、理学療法士で高齢者生活福祉研究所所長の加島守氏に、杖の使い方を教えてもらった。
◆杖はどちら側の手で持つ?
具合の悪い方と反対側の手、つまり左足が悪ければ、右手で持ちます。
どちらかの足の具合が悪いのでなく、ふらつきがある場合は、利き手で持ちましょう。
◆グリップのどこを持つ?
最もポピュラーなタイプ、グリップがT字になっている「T字型杖」(写真)の場合、人差し指と中指で支柱をはさんで握ります。
◆最適な杖の長さはどれくらい?
グリップの上端が、手首の外側にある突起(尺骨茎状突起)に来るくらいが、ちょうど良い長さです。
そうして持つと、肘関節がおよそ30度曲がるくらいになるはずです。
◆杖をつくときの歩き方
歩行リズムは2つあります。「1、2」の2動作と、「1、2、3」という3動作です。
【2動作の場合】
1 杖と具合が悪い方の足を一緒に出します
2 健常な方の足を出します
健常な方に杖を持っているので、ちょうど歩行時の手の振りと同じように杖をつくことになります。
【3動作の場合】
1 杖を出します
2 具合が悪い方の足を出します
3 健常な方の足を出します
2動作よりも歩くスピードは遅くなり、3動作の方がより安定した歩行となります。
◆階段を上り下りするとき
【上るとき】
「杖→健常な方の足→具合が悪い方の足」の順に出して上ります。
【下りるとき】
「杖→具合が悪い方の足→健常な方の足」の順に出して下ります。
◆ワンポイントアドバイス
一般的な杖は自立しません。ですから、たとえば買い物してお金を払ったり、袋詰めしたりするときに、どこかに立てかけても倒れることがあります。
そこで、ストラップがついていれば倒れることなく、これらの動作ができるので便利です。
なお、介護保険を使ってレンタルできる4点杖(写真)なら自立しますが、これは主に室内で使用するための杖です。
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今回は、杖の使い方について解説した。
杖は歩行を支援する用具だ。ふらつきが出たり、歩くのが大変になったりしたら、早めに杖を使うことで、今の生活範囲を維持できる。
まさに「転ばぬ先の杖」なのだ。
談/加島守 先生
1980年、医療ソーシャルワーカーとして勤務後、理学療法士資格取得。越谷市立病院、武蔵野市立高齢者総合センター補助器具センター勤務を経て2004年10月に高齢者生活福祉研究所設立、所長
取材・文/坂口鈴香
終の棲家や高齢の親と家族の関係などに関する記事を中心に執筆する“終活ライター”。訪問した施設は100か所以上。20年ほど前に親を呼び寄せ、母を見送った経験から、人生の終末期や家族の思いなどについて探求している。