取材・文/わたなべあや

大阪の国立循環器病研究センター(国循)では、心臓病や脳卒中などの循環器病や循環器病につながる高血圧の治療・予防のため、病院食を美味しく減塩する工夫をしています。この美味しい病院食を退院してからも食べたいという患者さんやそのご家族の要望もあり、一般向けレシピ本「かるしおレシピ」を発行。美味しく減塩できると評判になったのです。

そんな「かるしおレシピ」の極意を、国循で教わってきました。

■八方だしと計量が味の決め手!

減塩食は、食塩を含む調味料の使用を減らすため、どうしても味が薄くて、水っぽくなりがちです。「かるしおレシピ」では、美味しい減塩食にするために「八方だし」を利用します。

八方だしは、鰹節で取った出汁を薄口醤油と砂糖、少量の塩で調味したものです。簡単に作れて、衛生状態に気をつければ2~3日程度は冷蔵庫でストックできるすぐれもの。ただし、香りや風味が下がるので、早めに使いきりましょう。食材本来の味わいを引き立てながらうまみがじんわりしみこむので、少ない調味料でも風味を良くすることができるのです。肉や魚にあらかじめ下味をつけておけば、旨味たっぷりの美味しい料理を作れます。

ここで大切なのは、必ず自分で出汁を取ることです。市販の出汁は便利ですが、塩などで調味してあるため減塩にはなりません。

もうひとつ気を付けたいのが、調理する時にきちんと計量すること。塩はもちろん、醤油や砂糖、食材の量も計量します。かるしおレシピ専用の0.1mlから計れる小さな計量スプーンがあるので、それを使えば調味料の計量も簡単。食材と調味料の量のバランスを取ることで「美味しい減塩食」が作れます。

■味のバランスと彩りのよい料理で食欲増進

国立循環器病研究センター 「脳ドッグ」の食事

「かるしおレシピ」の料理写真を見ると、とても色鮮やか。作ってみたい、食べてみたいと思わせる料理が多数掲載されています。実は、美味しさの秘密は「見た目」にもあるのです。パプリカやにんじんの赤、レタスやオクラなどのグリーン、ブラックオリーブの黒など、色とりどりの野菜を使います。また、にんじんは花や鶴などの形に飾り切りをしています。見た目の美しさに、思わず食欲を掻き立てられます。

彩りだけではなく、味のバランスも非常に大事です。出汁のうまみに加えて酢やレモン、スパイスなどを効果的に使用して甘味、辛味、苦味、酸味といった味のバリエーションを広げることで、最後まで飽きずに食べられます。塩も減らせばいいというものではなく、食材本来の味を引き立すために適量を使いましょう。

■こっそり教える「かるしお調理」の4つのコツ

(1)野菜を下ゆでする

毎日忙しくスピーディーに調理したい方は、野菜をあらかじめ下ゆでしておくといいでしょう。堅い野菜から順にゆでて、8割方火が通ったら、いったん冷水に取ってからザルに上げて水を切ります。

前もって加熱することで火の通りが早くなり、調理時間が短縮できます。野菜炒めなどの炒め物にする時は、油の量も減らせます。冷水に取ると野菜の色が美しくなるので、見栄えもよくなります。

(2)魚は蒸して調理する

魚は煮るより蒸すことで調味料がすくなくても美味しく食べられます。。保冷用の小さなビニール袋に、50ccの八方だしと2切れの生魚を入れて浸け置きます。時間は90分くらい。あまり長く浸け込むと、魚が水分を含んで身がふやけてしまうのです。浸け終わったら、出汁を捨てて蒸しましょう。魚は煮ると身がしまってしまいます。蒸した魚は時間が経っても水分を維持することができ、ふっくらした食感になるのです。

(3)魚を塩焼きには八方だし+おろししょうが

魚に均等に薄く塩を振るのは意外と難しく、どうしても大量の塩を使ってしまいます。また、味にむらもできがちです。そこでおすすめなのが、八方だしに塩を少々入れ、おろししょうがを加えたものに浸け込んでから焼く方法です。どこを食べても同じようにほどよい塩気を感じながら、しょうがの風味で魚の臭みを取り除くことができます。

(4)肉は、しゃぶしゃぶ用の薄切り肉を利用

しゃぶしゃぶ用の肉を使うと、肉の表面積が増えて八方だしや調味料の味がよく染み込みます。また、分厚い肉だと中まで味がしみこみにくいのですが、しゃぶしゃぶ用の肉は、同じ量の調味料を使っても味がしっかりと感じられます。

調理法ですが、あらかじめ低めの温度の出汁で肉をほぐしながらさっとゆでます。先にご紹介したゆで野菜と肉をさっと炒めたら、簡単に野菜炒めが作れます。この時に完全に火を通してください。

*  *  *

以上、今回は「美味しい減塩食」が作れる「かるしおレシピ」の要点についてご紹介しました。

厚生労働省が推奨している日本人の塩分摂取量目標値は、一日男性8g、女性7gです。日本高血圧学会は、高血圧患者さんの塩分摂取目標を一日6gとしています。気をつけたいのは、小さじ一杯の食塩が5gなのですが、塩以外の調味料にも食塩が含まれているということです。

特に、醤油や味噌など和食に欠かせない調味料は食塩含有量が多いため、日本人は気をつけていても食塩過多の食事になりがちです。八方だしの旨味を利用する「かるしおレシピ」、まずは1食とか1品から始めて、ヘルシーで美味しい「かるしお」ライフを楽しんでみませんか。

取材協力/平野和保さん 国立循環器病研究センター 臨床栄養部 栄養管理室長 兼 かるしお事業推進室副室長。甲子園大学栄養学部栄養学科卒業後、京都大学附属病院、独立行政法人国立病院機構の各医療センターで管理栄養士として勤務。循環器疾患の予防や治療のため、「かるしおプロジェクト」などの事業に従事し、食を通した健康啓発をライフワークとしている。趣味は家庭菜園。

取材協力/長尾信之 国立循環器病研究センター 臨床栄養部 栄養管理室 調理師長。昭和52年辻調理師専門学校卒業後、 同年国立循環器病センター(当時)採用。平成27年調理師長昇任後「かるしお」の普及にも努め、調理講習会も多数開催。日本料理専門調理師、給食用特殊料理専門調理師、病院調理師。

取材・文/わたなべあや
1964年、大阪生まれ。大阪芸術大学文芸学科卒業。2015年からフリーランスライター。最新の医療情報からQOL(Quality of life)を高めるための予防医療情報まで幅広くお届けします。趣味と実益を兼ねて、お取り寄せ&手土産グルメも執筆。

 

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