文/印南敦史
誰しも、「毎日を平穏に過ごしたい」と思っているもの。
ところが、日常的にさまざまな出来事が起こるのが人生。望みたくないような厄介な問題も多いだけに、それらに気持ちを持っていかれてしまうことも少なくない。
したがって思いとは裏腹に、穏やかな状態ではいられなくなる可能性も大いにあるわけだ。
朝はすっきり目覚め、心穏やかに日中を過ごし、夜はぐっすり眠りにつく。
そういったシンプルなことが難しいのだとしたら、時間を無駄にしているような、あるいはなにか損をしているような気持ちになってしまったとしても不思議はないだろう。
そこで、気持ちを穏やかにするため参考にしたいのが、『毎日を平穏にするヨーガの習慣』(赤根彰子 著、清流出版)である。
著者は学生時代からヨーガを実践し、インドに渡り、ヨーガ道場で修行してきたという人物。インドのヨーガ大学を卒業後、東京と横浜でヨーガの指導、講演、執筆等を行っているのだという。
もしかしたら、ヨーガと聞くと難しそうに感じてしまうかもしれない。私も最初はそんな思いを抱いていたのだが、決してそうではないようだ。
インド五千年の秘法であるヨーガは、精神統一法で、こころを平穏に過ごす智慧を示してくれています。
それを日々の生活にとりいれ、習慣にすることで、毎日を平穏にすることが可能となります。(本書「はじめに」より引用)
つまりは、意外にシンプルなメソッドであるということ。そこで本書では、朝の目覚め、日中、夜、そして眠りにつくまでの時間における、ヨーガによる心のあり方、生活の仕方、ものの考え方を紹介しているのである。
ここではその中から、すべてのスタートラインである「朝のヨーガ」に焦点を当ててみることにしよう。
目覚めること
「起きる」と聞いて思い浮かぶのは「目を覚ます」ことだが、ヨーガでは「起きること」と「目覚めること」は別。起きることは、目を開けて活動し始めることであり、目覚めるとは“迷いの世界(闇)”から抜け出すことを指すのだという。
毎朝、私たちは起きるわけだが、迷いの世界にいるのだとしたら、まだ目覚めていないということになるのだ。
今日という一日がはじまろうとしています。
闇を太陽の光が照らし出し、世の中が明るくなってきます。
わたしたちも、それと同調して、こころの闇から抜け出し、こころを明るくしたいです。自然の大いなる力を借りて、閉ざしたこころを大きく開きたいです。(本書10ページより引用)
漫然と、場合によっては悩みなどを抱えたままの状態で朝を迎えてしまうこともあるかもしれない。しかし、迷いの世界から抜け出すべく、思い切り伸びをして前向きな朝を迎えたいところだ。
自然が教えてくれること
ヨーガでは、自然な状態にあれば体調は整い、不自然だと不調になると考える。
ヨーガの無数にあるポーズには、山のポーズ、樹のポーズ、月のポーズなど、自然を模倣したものがたくさんあります。ポーズを模倣するだけでなく、自然のパワーをこころで模倣します。(本書11ページより引用)
たとえば朝のイメージは、どのようなものだろう? 大切なのは、自分のいちばん好きな朝を想像してみること。
風がやさしい朝。空気が澄んでスッキリした朝。
朝の清々しさ、透明感、静けさなどを、こころで模倣し、朝の感じになってみます。(本書11ページより引用)
それは、朝を素敵な贈り物として受け取る感覚だと著者は表現している。
窓を開ける
世の中がまだ活動を始めていない朝は、清らかで静かな時間。
そこで、まずは窓を開け、暗く停滞した夜の時間を過ごした空気を外へと逃し、新しく清々しい空気を招き入れたい。
そのとき、こころの窓もしっかり開けて、こころの中を、静けさと清々しさで満たします。
そして、洗面を終えてから、居心地の良い場所に、正座かあぐら、または足を組んだ状態(足が痛くない座り方)で座って、自分を観察します。(本書14ページより引用)
体や心、呼吸が平和な状態か、穏やかな一日を過ごすために準備をするということ。
* * *
やや抽象的な表現だと感じるかもしれないが、コロナ禍のため気持ちがすさみがちな時期だからこそ、こうしたことを日常的に意識したいところだ。
『毎日を平穏にするヨーガの習慣』
文/印南敦史 作家、書評家、編集者。株式会社アンビエンス代表取締役。1962年東京生まれ。音楽雑誌の編集長を経て独立。複数のウェブ媒体で書評欄を担当。著書に『遅読家のための読書術』(ダイヤモンド社)、『プロ書評家が教える 伝わる文章を書く技術』(KADOKAWA)、『世界一やさしい読書習慣定着メソッド』(大和書房)、『人と会っても疲れない コミュ障のための聴き方・話し方』『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(星海社新書)、『書評の仕事』(ワニブックスPLUS新書)などがある。新刊は『「書くのが苦手」な人のための文章術』( PHP研究所)。2020年6月、「日本一ネット」から「書評執筆数日本一」と認定される。