文/鈴木拓也
国内のアルコール依存症者数は、その手前の予備軍まで入れると1千万人を超えるという。
にわかには信じがたい数字だが、毎日の晩酌が習慣になっている人も、医学的には「予備軍」に入るというから驚く。
実は医学の世界では、アルコールは立派な「薬物」。薬の安全性の目安となる安全係数でみれば、アルコールは10段階の4にあたる(数値が高いほど安全で、3以下は「危険な薬」)。特に最近登場した「ストロング系飲料」に至っては、「危険ドラッグといっても過言ではありません」と警鐘を鳴らすのは、東京アルコール医療総合センターのセンター長・垣渕洋一さん。
垣渕さんは、著書『「そろそろ、お酒やめようかな」と思ったときに読む本』(青春出版社)の中で、飲酒を完全にやめてしまう「禁酒」をすすめており、これが次世代の常識になると語る。
「百薬の長」といわれるお酒だが、精神的な効用は多少あっても、身体的な効用はゼロ。肝障害といった病気だけでなく、家庭でのDVや職場での勤怠問題など、人生に暗雲をもたらす一要因だと、垣渕さんは力説する。しかも、「飲酒問題は加齢と共に深刻化」するそうで、リタイア後に酒で身を持ち崩す人は少なくないとか。
お酒が好きな熟年世代には他人事ではないが、では、どうすればいいのか?
どれぐらいの飲酒なら適量?
垣渕さんは、国による「健康日本21」という指針を引き合いに、飲酒の適量を紹介している。
それによれば、1日の飲酒量は「ビールの中瓶かロング缶1本で500ml、日本酒なら1合弱、25度の焼酎なら100ml、ワインは小さなグラス2杯程度」が目安。
これは、働き盛りの男性の話。女性や高齢者だと、もっと少なくなる。
逆に完全なアウトは、日本酒なら3合、ビールなら1.5リットルといった分量。この分量以上を飲んでいる人は、1千万人はいると推計されている。たとえそれ以下の分量でも、適量を超えているなら、生活習慣病のリスクは十分にある。
「健康日本21」の調べでは、がん、高血圧、脳出血、脂質異常症などの飲酒に関連する健康問題のリスクは、1日平均飲酒量と共に直線的に増加することがわかっています。(本書87pより)
さて、お酒をやめたい人の対策の第一歩は、自分の飲酒量の把握だという。本書には、基礎的な飲酒量の計算方法や、WHOが開発した依存度がわかる簡単なテストが載っているので、それで自分の今の状態を知ることが肝要となる。
「見える化」と「宣言」で挫折を回避
今まで何度か禁酒にチャレンジして、そのたびに挫折した人もいるかもしれない。
垣渕さんは本書の中で、禁酒に頓挫しないための秘訣を挙げている。
第一に、「目的を明確にする」。単に「お酒を減らす、やめる」ではなく、それによって自分はどうなりたいかを明確にすることが大事だという。
例えば「ヤセてすっきりした体型になりたい」「まずは、二日酔いになる日をなくしたい」というふうに。こうした目的を立てることで、「そこに近づくための計画が立てやすくなります」と、垣渕さん。
目的を定めたら、次に行うのは「見える化」と「宣言」。「見える化」とは、日々の飲酒を記録にとること。例を挙げると、以下のように。
書くのは、紙でも(エクセルといった)PCソフトでもスマホの減酒アプリでもOK。自分に合ったものを選ぶ。
また、書く内容に、心身の変化を詳細かつ具体的に加えるとベター。朝の目覚めや体重の変化などもそうだが、「禁酒を始めてから夫婦喧嘩が減った」のような周囲の反応も盛り込む。そして、書く事柄は、とても小さな変化でもかまわない。
こうした変化の記録が少しずつ、日に日に増えていくと、「飲まないのはたしかにいいことだ」と強く思えるようになります。減酒から始めた人でも、いつの間にか禁酒に切り替わっていた、とうこともあるのです。(本書172pより)
もう1つのキーワードとなる「宣言」は、文字どおり「禁酒(減酒)の開始を周囲に宣言すること」。家族・職場の人たちに決意表明してしまえば、引っ込みがつかなくなり、三日坊主で終われないというメリットがある。それだけでなく、「共に成功を喜んだり、『すごいね』とホメてもらったりすれば、禁酒生活が活気づいてきます」とも。
店の酒類コーナーに立ち寄らないだけでも効果あり
垣渕さんは、日常的な節酒のテクニックもさまざま提示している。その1つが「お酒を目に入れない工夫」。この工夫にも幾つかあるのだが、手始めにやりやすいのが、「お酒のコーナーに立ち寄らない」。
スーパーやコンビニで買い物をするとき、お酒がズラリと並んだコーナーに足を運ぶと、ついカゴに入れてしまいます。できるだけ立ち寄らない、または視野に入れないことが対策になります。(本書187pより)
これは、居酒屋についても同様。駅からの帰り道に繫華街があるなら、回り道になってもそこを避けて帰る。あるいは、スポーツジムといった「サードプレイス(第三の場所)」を見つけ、そこで過ごす時間を増やすのも効果的だという。家での晩酌が欠かせない人なら、その時間に子供の勉強を見るなど、スケジュールに組み込んでしまうというのも手だ。
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自他共に認めるお酒好きなら、「お酒のない人生なんて味気ない」と思われるかもしれない。しかし、禁酒のメリットは、お酒べったりの生活よりはるかに大きいものがある。垣渕さんによれば、世界的にお酒に対する意識が急速に変わり始めており、今が「禁酒の絶好のチャンス」なのだという。この時流に乗って、減酒・禁酒に挑戦してみてはいかがだろうか。
【今日の健康に良い1冊】
文/鈴木拓也 老舗翻訳会社役員を退任後、フリーライター兼ボードゲーム制作者となる。趣味は神社仏閣・秘境巡りで、撮った映像をYouTube(Mystical Places in Japan)で配信している。