「天の製茶園」が力を入れる、在来種の茶畑。

「天の製茶園」が力を入れる、在来種の茶畑。

無農薬・無化学肥料によるお茶づくり

立春から数えて八十八夜が、新茶の収穫が最盛期と言われます。5月初旬、まさに茶畑が一年で最も美しい表情を見せる季節に、熊本県水俣市にある「天の製茶園」を訪れました。

奇しくも今年は、水俣病が公式の認定を受けて60周年という節目の年。水俣市はぬぐえない過去の教訓から、環境に配慮した産業や暮らしづくり、自然との共存を目指し、現在は「環境モデル都市」に指定されるまでになりました。

こうした背景から、天野茂さん・浩さん親子は「より安全でおいしいお茶をつくりたい」という思いで、無農薬・無化学肥料による緑茶や紅茶の栽培に取り組んできました。“天空の茶園”とも呼ばれる天野さん親子の茶園は、携帯電話も通じない、標高600mという高原にあります。ひんやりとした空気の中、霧に包まれた美しい茶畑がどこまでも広がり、その光景はまるで雲の中に浮かんでいるよう。

「空気中に水分がたくさんあるほうが、茶葉がふっくら育つんですよ」と、三代目の浩さん。浩さんが家業に加わってからは、特に紅茶づくりに力を入れるようになりました。老舗和菓子店の「紅茶羊羹」の原料にも採用されるほど、その質の高さと豊かな味わいが評価されています。

日本茶の代表的な品種「やぶきた」。青々とした美しい葉が生い茂っています。

日本茶の代表的な品種「やぶきた」。青々とした美しい葉が生い茂っています。

ほのかに香ばしい、昔ながらの「釜炒り茶」

さっそく見せていただいたのは、昔ながらの製法による「釜炒り茶」の製造工程です。摘んだ生葉はそのまま放っておくと、葉の含まれる酵素によって発酵が進んでしまうため、熱を加えて不活性化します。煎茶の場合は蒸して熱を加えますが、釜炒り茶の場合は、蒸す代わりに大きな釜を使い、300℃程度の高温で炒るのです。

生の茶葉を高温の大釜で炒って、釜炒り茶がつくられます。

生の茶葉を高温の大釜で炒って、釜炒り茶がつくられます。

きたての釜炒り茶。丸まった茶葉の形状が特徴。

できたての釜炒り茶。丸まった茶葉の形状が特徴。

こうしてつくられた釜炒り茶は、口当たりはさっぱりとしていますが、優しい旨味があり、炒っているのでほのかな香ばしさもあります。もともとは中国から伝えられたといわれている製法で、九州で多くつくられているのだそうです。

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