時季になったら新幹線に乗り、バスを仕立てて、空路を辿り日本中から産地めがけて人が動く。わざわざ食べに行きたいほどの美味、それが「蟹」。今年はどこへ、出かけようか。
11月から3月までの限定営業の料理店で堪能する
庄内北前ガニ(ズワイガニ)山形県鶴岡市
山形県の庄内地方は日本有数の穀倉地帯である広大な平野を有する。日本海に面する鼠ヶ関、由良、酒田などの港からは海の幸が水揚げされ、平野からは米や野菜、果物が豊富に届く。鶴岡や酒田の市内を中心に和洋の飲食店が腕を競い、庄内が「食の都」と呼ばれる所以だ。
そんな庄内ならではの宿、田園に立つ『スイデンテラス』に滞在し、庄内の滋味に身を委ねる旅を。中でも近年注目されている冬の味覚が「庄内北前ガニ」だ。「庄内北前ガニ」とは庄内浜から水揚げされるズワイガニのブランド名で、山陰や北陸の有名産地よりひと月ほど早く、10月から漁が解禁となり1月まで漁期が続く。ブランド化されたのは4年前で、庄内では以前より「ヨシガニ」と呼ばれてきた。「ヨシガニ」の中でも、重さが1kg以上、甲羅幅13cm以上の雄──などの条件を満たした活蟹が「庄内北前ガニ」として出荷される。
山海の旨みが凝縮される
『日本料理わたなべ』は、庄内平野の田園地帯の中にある料理店だ。店主の渡部賢さんは米農家の生まれで、店は実家に隣接して立つ。農繁期は家業に従事するため、11月から3月までの冬季限定営業の店である。料理人として都内の京料理店などで修業した渡部さんは、家業を継ぐために実家に戻る。それでも料理人の夢を捨てきれず、平成26年に同店を開業した。農業と飲食業という二足のわらじを履くことにしたのだ。
冬季限定営業であれば、当然主役に蟹が登場する。渡部さんの蟹料理を楽しみに、開店を待つ贔屓客は多い。今回、いただいた一品は「庄内北前ガニ」の蒸し物だ。蟹と合わせて蒸されるのは、青菜や枝豆などの自家栽培野菜。それらを昆布で巻き旨みを凝縮させる。味のしっかりした庄内野菜が、旬の蟹の風味を一層引き立てる。
「蟹の蒸し汁を捨てず、そのまま野菜に合わせています。薄味に仕立ててありますので、好みでポン酢などで召し上がってください」(渡部さん)
別皿の料理も、自家栽培野菜を中心に地元の食材を使ったものばかりだ。冬季のみという限られた営業期間に、全身全霊で腕を振るう渡部さんである。
日本料理わたなべ
山形県鶴岡市野田目字家ノ腰41-2
電話:0235・64・0031
営業時間:11月〜3月末、11時30分〜14時/18時〜21時 要予約
定休日:不定 55席、駐車場11台。
交通:JR羽越本線藤島駅より車で約5分、同鶴岡駅(特急停車駅)より車で約15分
スイデンテラス
山形県鶴岡市北京田字下鳥ノ巣23-1
電話:0235・25・7424
チェックイン15時30分、同アウト10時
上画像の「田園ビューテラス付きダブルルーム」は1泊2日朝食付き、1室2名利用でひとり1万3350円〜、
別途入湯税150円。全119室。
交通:JR羽越本線鶴岡駅より車で約10分
取材・文/宇野正樹 撮影/多賀谷敏雄
※この記事は『サライ』2023年2月号より転載しました。