おしゃべりする、ぼーっとする、読む、学ぶ、考える、俗世間の塵を払う──そこは人間にとって大切なものに満ちた場所。喫茶店でしか出会えない“普段着の京都”をご案内します。

味、値段、ボリューム。3拍子が揃う隠れた実力派

創業者が収集した古い京都の写真が20~30枚あり、随時かけ替えている。左端は八坂神社の門前。

昭和44年、秋岡勇は、勤めていたおもちゃ問屋が倒産し、近所に喫茶店がないという理由で、妻の登茂と喫茶店を始めた。

息子の誠さん(58歳)は、高校を卒業した頃から店を手伝うようになるが、とくに身を入れていたわけではなかった。世界遺産になる前の二条城は観光客が少なく、客の多くは繊維関係のサラリーマン。あるとき、ひとりの客が、苦しそうに「はあー」と深いため息をついた。

「こういう人を支えることができたら、この仕事もやりがいがあるのかもしれないな」

と思うようになったという。

「私は豆の勉強とかもしたことがなくて……。焙煎もブレンドも昔から上島珈琲さんにおまかせ」

と誠さんは謙遜するが、コーヒーの味はまろやかで、名物の食事を引き立てる味だ。

昔から10杯分をネルでドリップ。店主・誠さんのおば・繁田麗子さん(72歳)は、明るくて元気な看板娘。

絶品カレーと玉子サンド

「カツカレー」830円と「玉子サンド」700円は、飲み物(ビールは除く)とセットで頼むと100円引き。「ブレンド」は400円。

人気のカレーは、スパイスが強すぎず弱すぎず、研究を重ねたことがうかがわれる。仕込みに3日間かけているという。味はカレー専門店と遜色なく、ボリュームは定食屋をしのぐ。「カレーライス」の価格は700円。これで人気が出ないわけがない。

「玉子サンド」は、卵焼きではなくスクランブルエッグを寄せて作る。年々ぶ厚くなっていて、今は1人前に卵4つを使う。量が多すぎて持ち帰る人や、ハーフサイズ(400円)を頼む人が多い。山科の『丸善パン』から木曜を除く毎日配達されるパンも柔らかくておいしい。この店の近くに住む人は幸せだ。

マッチ箱のロゴとイラストは創業者の妹(今も現役のデザイナー)が手がけた。看板にも使われている。
創業者・勇は登山が好きだった。山小屋風の内・外装は、大工だった登茂の父と勇の弟が手がけた。

喫茶チロル
京都市中京区門前町539-3
電話:075・821・3031
営業時間:8時~16時
定休日:日曜、祝日
交通:地下鉄東西線二条城前駅より徒歩約4分
トーストの種類も豊富。

【立ち寄り情報】
・神泉苑まで徒歩約1分。平安京に造られた苑池で歴代天皇が宴遊。紅葉の名所。
・二条城入口(東大手門)まで徒歩約8分。
・店の周辺はかつて小浜藩邸だった。二条城に近いため幕末は徳川慶喜が滞在。店の前の御お 池いけ通を西に約2分歩くと「若州小浜藩邸跡」碑。

取材・文/大塚 真、撮影/小林禎弘
※この記事は『サライ』2021年10月号別冊付録より転載しました。

 

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