おしゃべりする、ぼーっとする、読む、学ぶ、考える、俗世間の塵を払う──そこは人間にとって大切なものに満ちた場所。喫茶店でしか出会えない“普段着の京都”をご案内します。

芸妓さんにも愛されるアイスコーヒーの名店

店内には中村勘九郎(故・十八代目勘三郎)と松本幸四郎のサイン色紙が飾られている。芸能界の客も多い。

店は、先斗町通を北に向かって突き当たりにある。この地で生まれ育った谷康二が創業し、康二が他界したあとは、妻のフミ子さん(74歳)がひとりで切り盛りしている。席はカウンターのみ。フミ子さんの気さくでフレンドリーな人柄もあり、初めて来ても落ち着ける雰囲気である。店内には芸妓さんの団扇がずらっと飾られている。夏になると、自分の名を書いた団扇を配りにくるという。花街ならではの店だ。

エスプレッソマシンはイタリアの「チンバリ」製。エスプレッソマシンの扱いは難しく、抽出するときは真剣。

年中愛される「アイス」

「アイスコーヒー」530円。ミルクを入れても濃厚な味わい。深めに焙煎したオリジナルブレンドの豆を使用。

創業者・康二の家は「吉田屋」という屋号で代々、和ろうそく屋や油屋、氷屋などを営んでいた。在庫を抱えなくていいという理由と、淹れたてをすばやく提供したいという思いからエスプレッソの店を始めた。エスプレッソを看板としたのは、当時近くにあったエスプレッソの名店『ちきりや』の影響もあった。

『吉田屋』ではブレンドやデミタスカップのエスプレッソ(イタリアン)とならびアイスコーヒーを注文する人が多い。たとえ冬であっても。

そのアイスコーヒーは、エスプレッソマシンで抽出する。ストローでひと吸いして驚いた。冷たい飲み物であるにもかかわらず、香りが強い。常連客はストローなしで飲むそうで、試してみるとたしかに香りと味が一気に押し寄せてきてうまい。コクと酸味のパンチ。コーヒーで酔える店である。

「トアルコトラジャ」700円。他にデミタスカップの「イタリアン」500円、「ロールケーキ」400円など。
温冷すべてのコーヒーを「チンバリ製」エスプレッソマシンで淹れる小さな喫茶店。

エスプレッソ珈琲 吉田屋
京都市中京区木屋町通三条下ル東入
電話:075・211・8731 
営業時間:11時30分~21時
定休日:月曜 
交通:京阪本線三条駅より徒歩約5分
ウインナーコーヒーに金箔をのせた「純金珈琲」1000円は、めでたい日の飲み物として人気。

【立ち寄り情報】
・先斗町歌舞練場まで徒歩約1分。毎年5月に「鴨川をどり」の公演が開かれる(2021年は中止)。
・フミ子さんのおすすめの和食店は、先斗町通を南に下った『し乃』。徒歩約5分。洋食ならば、
京都市役所前駅南の『ノルマンディ』。徒歩約8分。

取材・文/大塚 真、撮影/塩﨑 聰
※この記事は『サライ』2021年10月号別冊付録より転載しました。

 

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