取材・文/池田充枝
1847年にルイ=フランソワ・カルティエがパリで宝飾店を創業し、20世紀初頭に3人の孫たちに引き継がれると、ユニークで明確な創作のヴィジョンによって、現代宝飾の基盤が築かれました。
カルティエの作品は、単なる装飾品の枠組みを超え、たぐいまれな芸術の域へと高められ、世界各国の主要美術館などにおいてそのコレクションが展示紹介されていることで、数あるメゾンのなかでも特筆される存在です。
常に時代の声に耳を傾け感知するセンス、開かれた精神と究極の美を追求する姿勢、それはカルティエの創造的なヴィジョンであり、過去、現在、未来のどの断面を切り取ってみても必ず現れる、時を超えて脈々と流れる普遍的なカルティエの本質です。
日本で過去三度開かれて好評を博したカルティエの展覧会が開かれています。(12月16日まで)
本展は、世界でも初めての試みとして、特に1970年代以降の現代作品に焦点を当てています。会場構成を手がけるのは新素材研究所/杉本博司+榊田倫之。伝統的な職人の技術と最新技術を融合させる彼らの展示空間が、カルティエの革新性、現代性、独自性を映し出します。
本展の見どころを、国立新美術館の主任研究員、本橋弥生さんにうかがいました。
「これまで世界の名立たる美術館でカルティエ展が開催されてきましたが、『時間』というテーマを掲げ、初期から現代までの作品を概観する展覧会は世界でも初めての試みです。さらに、『デザイン』としてとらえられたカルティエのハイジュエリーが、新素材研究所の会場構成によって、展示空間そのものがアートとして展示されている点においても、本カルティエ展は全く新しい試みであると言えます。
本展は、大きく3つの視点からカルティエ作品をとらえています。
第1章は色と素材のトランスフォーメーション。素材づかいや色彩の観点からカルティエの独自性を紹介しています。
第2章はフォルムとデザイン。ラインや構造といった本質的なフォルムに宿るカルティエの視覚的な先駆性には目を見張るものがあります。
第3章はユニヴァーサルな好奇心。20世紀初頭にメゾンを率いた3代目ルイ・カルティエは世界を俯瞰しながら、自然から文化まで幅広い好奇心を持っていました。それは今日でもカルティエのDNAとして脈々と受け継がれています。
その他、カルティエの野性的、官能的でタイムレスなアイコンである『パンテール』(豹)の過去から現在までをフューチャーしたコーナーや、カルティエのインスピレーションとなった資料、そしてデザイン画も展示しています。
宇宙が長い年月をかけて生み出した奇跡的な物質である宝石を、カルティエが卓越した技術でいかにして芸術にかえてきたのか。またその創作世界を、新素材研究所が『時間』と『素材』を軸にどのように表現しているのか――両者が創り出す本展は奇跡としか言いようがありません」
新素材研究所による全く新しい展示空間のなかで輝きを増すカルティエ作品、ぜひ間近でご鑑賞ください。
【開催要項】
カルティエ、時の結晶
会期:2019年10月2日(水)~12月16日(月)
会場:国立新美術館 企画展示室2E
住所:東京都港区六本木7-22-2
電話番号:03・5777・8600(ハローダイヤル)
展覧会HP:https://Cartier2019.exhn.jp
開館時間:10時から18時まで、毎週金・土曜日は20時まで(入場は閉場30分前まで)
休館日:毎週火曜日(ただし10月22日は開館)、10月23日
取材・文/池田充枝