曾我蕭白の強烈な描写や円山応挙の写実性を身につけ、独自の道を歩んだ絵師・横山華山(よこやま・かざん)。歴史に埋もれた画業が再び、日の目を見る。
あの曾我蕭白に私淑し絵を学ぶ
これほど素晴らしい作品を残した絵師が、忘れられていたのか。9月22日から東京ステーションギャラリーで始まる「横山華山」展を見終わった人はみな、そんな感慨を抱くに違いない。
絵師・横山華山(1781/84~1837)は、江戸後期に京都で活躍した。生まれは、越前国(現・福井県)とも京都ともいい、親は医師だった。その後、京都で織物業を営む横山家の養子となる。同家は、奇想の絵師として知られる曾我蕭白(1730~81)と親交があり、その作品を何点も所持していた。幼い頃から絵の才能を示していた華山は、おのずと蕭白の絵から多くを吸収した。
長じて虎の絵の名手・岸駒(1749/56~1838)に師事。さらに京都画壇の中心的存在だった呉春(1752~1811)の絵を通して、彼が学んだ円山応挙風の写実描写を取り入れた。
こうして華山は、多彩な画風を自在に使いこなす絵師となる。東京ステーションギャラリー学芸室長の田中晴子さんは、こう話す。
「人物、山水、花鳥、風俗と、華山はあらゆる依頼に応じました。そして、どの分野においても高度な技量を発揮し、構図や描写力の見事な作品を残しています」
ただし華山の多才ぶりが、後世の評価を難しくしたようだ。明治・大正時代までは、文豪の夏目漱石が代表作『坊っちゃん』で言及するほど知られていた。ところが時代が下るにつれ、特徴的な個性を見出しにくい華山の名は忘れられ、知る人ぞ知る絵師となった。
風俗描写で発揮された画技
「現代の目で見ると、華山の真骨頂は風俗画にあるといえます。京の夏の風物詩、祇園祭を記録した『祇園祭礼図巻』の緻密な描写は臨場感に富み、人々の表情まで描き分けています」
と田中さんは評価する。華山の絵は、実際に江戸時代に破損した山鉾を復興させる際に参考にされた。しかも山鉾の細部まで取材したであろうにもかかわらず、作品ではあえて枠外にはみ出すように描き、全貌を見せないこともある。そうすることで絵巻という限られた空間に奥行きが生じ、山鉾がより動的に見えるのだった。
絵を見るほどに伝わる画技への誇り。新たな「奇想の絵師」が再発見されたといえるだろう。
「横山華山」展
江戸後期の絵師・横山華山の多彩な画業を、系統だてて紹介する初めての回顧展。影響を受けた曾我蕭白や弟子たちの作品も含め、出品数は約100点に上る。特に『祇園祭礼図巻』は、上下巻合わせて約30mの全場面を一挙に公開する。また、ボストン美術館や大英博物館など海外に渡った作品も里帰りする。
【開催場所】
東京ステーションギャラリー
東京都千代田区丸の内1‐9‐1
電話:03・3212・2485
【期間】
9月22日(土)~11月11日(日)
(会期中展示替えあり)
【開館時間】
10時〜18時(ただし金曜は、〜20時。入館は閉館の30分前まで)
【休館日】
月曜(9月24日、10月8日、11月5日は開館)、9月25日(火)、10月9日(火)
【入館料】
一般1100円
【巡回】
2019年4月20日(土)〜6月23日(日)/宮城県美術館、同7月2日(火)〜8月17日(土)/京都文化博物館 JR東京駅丸の内北口
※この記事はサライ2018年10月号より転載しました。