日本におけるモダンデザインのパイオニアとして知られる杉浦非水(すぎうら・ひすい 1876-1965)。

「東洋唯一の地下鉄道 上野浅草間開通」昭和2年(1972)愛媛県美術館蔵

非水は当初、東京美術学校で日本画を学んでいましたが、在学中にフランス帰りの洋画家、黒田清輝がもたらしたアール・ヌーヴォー様式の図案に魅せられて図案家としての道に進むことになりました。

「日本画家写生教室 五月三日」明治30年~34年(1897-1901)愛媛県美術館蔵

明治41年(1908)に三越呉服店の嘱託となり、以後約27年にわたって同店のポスターやPR誌のデザインなどを一手に担いました。三越以外にも様々な企業やたばこのパッケージなどを手がけ、単なる宣伝の枠を超えて図案家として活躍しました。

この秋、非水の足跡をたどる展覧会が開かれています。
(11月14日まで 会場:たばこと塩の博物館)

本展は、非水の故郷、愛媛県美術館所蔵のコレクションを中心に、ポスター、装丁、雑誌表紙、パッケージデザインなど約300点を前後期に分けて紹介します。

「三越呉服店 春の新柄陳列会」大正3年(1914)愛媛県美術館蔵

本展の見どころを、たばこと塩の博物館の学芸部長、鎮目良文さんにうかがいました。

「杉浦非水は、現在でいうグラッフィクデザイナーという職業を、日本で確立させた先駆者の一人といえます。明治以降、海外からもたらされた様々なデザイン理論を学びつつ、その上で、日本らしい図案・デザインの創出にこだわりました。

非水がそのためのヒントにしたのが、日本の四季がおりなす自然の色彩であり、そこに生きる動植物の形態です。非水は生涯を通じて、自然に畏敬の念を持ち、真摯な姿勢で写生を続けていました。また、職業デザイナーとして、クライアントからの注文や時代的・社会的制約を当然なものと受け止め、その上で、自分にしかできないデザインを心がけていました。

「光」昭和11年(1936)たばこと塩の博物館蔵

本展覧会では、非水の作品をだいたい時代順に紹介しています。非水の作品を概観するだけで、近代日本におけるグラフィックデザインの発展そのものを感じていただけるのではないでしょうか。そしてその中にある日本らしさ、そして社会と関わりを持ち続けた職業人としてのこだわりを感じていただければ幸いです」

「新宿三越落成 十月十日開店」昭和5年(1930)愛媛県美術館蔵

古いのに新しい、そしてどこか懐かしい! 会場で時代の息吹きを感じてください。

【開催要項】
杉浦非水 時代をひらくデザイン
会期:前期 9月11日(土)~10月10日(日)
   後期 10月12日(火)~11月14日(日)※前期・後期で展示替えあり
会場:たばこと塩の博物館
住所:東京都墨田区横川1-16―3
電話:03・3622・8801
公式サイト:https://www.tabashio.jp
開館時間:11時から17時まで(入館は16時30分まで)
休館日:月曜日(ただし9月20日は開館)、9月21日(火)
料金:公式サイト参照
アクセス:公式サイト参照

取材・文/池田充枝

 

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