マネジメント課題解決のためのメディアプラットホーム「識学総研(https://souken.shikigaku.jp)」が、ビジネスの最前線の問題を解説するシリーズ。今回は、コンプライアンス意識を高めることについて、中小企業の視点から解説します。
昨今は、内部統制の不備やコンプライアンス意識の欠如から来る組織の不祥事が次々と明るみになりました。一度不祥事が起きてしまえば、途端に倒産へと追い込まれるケースも珍しくありません。そうならないようにするためにも、今から内部統制を整備し、コンプライアンス意識の向上に努めてはいかがでしょうか。その方法について、全国4000社以上に組織コンサルティングを提供する識学の上席コンサルタント・冨樫篤史さんが解説します。
中小企業も無関係ではいられない
内部統制やコンプライアンスの重要性は、2000年前後から叫ばれるようになりました。不正会計に手を染めた山一證券が1997年に経営破綻し、2000年には三菱自動車の「リコール隠し」が発覚、大きな問題になりました。
米国でもITバブルが弾け、2001年にエンロンが、2002年にワールドコムがいずれも不正会計により倒産。この頃から少しずつ、「倫理感を持って仕事に臨むべきだ」という考えが一般企業の間に浸透し始めるとともに、内部統制やコンプライアンスに関連する法律の整備がされていきました。
それでも、内部統制の不備やコンプライアンス意識の欠如から来る組織の不祥事は後を絶ちません。
組織の規模が大きければその分内部統制やコンプライアンスへの姿勢は正しくあって当たり前のように思えますが、実際はそうでもないのでしょう。だとすると、中小企業の意識はもっと低いことも考えられます。
しかし、これからの時代を生き抜いていくには、企業規模に関係なく内部統制の整備やコンプライアンスの徹底を進めていくべきです。連日の報道によって社員の関心が高まっている今こそ、改革に乗り出す絶好のタイミングだと言えます。
「姿勢のルール」を設定し、順守させることから始めよう
内部統制の取れた組織を築き、社員のコンプライアンス意識を向上させるにはどうすればよいのか。それぞれ考えていきましょう。
内部統制の取れた組織を構築するには、個人の能力に関係なく守ることができるルールを決め、それを社員全員に順守させることから始めます。「出社したら自部署のメンバー全員に聞こえる声であいさつをする」「取引先に伺う際は作業着からスーツに着替える」などです。これは、働く姿勢を問うルールですので、我々は「姿勢のルール」と呼んでいます。
ポイントは、ルール違反を見逃さないこと。「少しくらい目をつぶろう」「何度言っても従わないから諦めた」は厳禁です。姿勢のルールを守らない社員には守るようになるまで指摘を続けなければなりません。ルールを破った社員はとがめられずにいると、「守らなくてもいいんだ」と勘違いします。それに、割れ窓理論で言われるように、「あの人が怒られないなら自分も大丈夫だろう」と考える社員がどんどん増えていきます。
私は、2021~2023年にかけ、ある中小企業に役員として出向していました。私が着任して最初に実行した仕事も、姿勢のルールとしてあいさつを義務付けました。最初は、「こんなこと意味があるんですか」「ルールに縛られたくない」といった不満を社員が漏らしていましたが、ある日会社を訪れたお客さまから、社員のあいさつについてお褒めの言葉を頂きました。それは、姿勢のルールで定めていたものでしたので、すぐにフィードバックしたところ、その日から社員の文句はぴたっとなくなりました。
その結果何が起きたか。着任から半年が経過した頃、「敷地外の歩道に落ち葉がたまっているので掃除してください」と直属の部下に指示を出したら、6人のメンバーを集めて即座に掃除に取りかかって、「終わりました」と写真付きのメッセージが送られてきました。
また、総務部の社員からは「作業着をオーダーするにあたって、全員が期限までにサイズの申告をしてきました」という報告を受けました。それまでは、何度も繰り返しリマインドをしてようやく全員から連絡をもらう状態だったそうです。このように、姿勢のルールの徹底を通じて、規律を土台とする組織ができ上っていきます。
コンプライアンスに関する内容を姿勢のルールで定めるのも有効です。例えば、「顧客情報に関するデータを社外のスペースで共有しない」「喫茶店でお客さまの電話を受ける際はいったん外に出て周囲に人がいないことを確認してから話をする」など。起きてほしくないコンプライアンス違反は、経営者が先に頭を回し、ルール化して防ぐのです。
価値観のずれを認識できる仕掛けを用意する
一方、社員のコンプライアンス意識はどうやって醸成させるべきかというと、これは経営者の倫理観次第です。悪事を働いてばかりの経営者の下に良心的な社員が集まったところであまり意味はありません。経営者は、自分の倫理観が世間とずれていないか常に気を配る必要があります。
米国でリーダーシップ研修を手がけるロミンガー社によれば、リーダーの成長に影響を及ぼすものは「経験が7割、他者からの薫陶が2割、研修は1割」です。この「ロミンガーの法則」が正しいのであれば、「コンプライアンス研修を受ければ万事解決」とはならず、それは最低限だと分かります。
では、経験を積めばよいのかというと、そうでもありません。会社が吹き飛ぶレベルの経験をしてからでは遅すぎます。したがって、残る2割に該当する他者からの薫陶が非常に重要です。自分を客観視し、メタ認知できる仕組みを自ら構築する必要があります。
例えば、経営者や上司の指示が社会のルールを逸脱するような事態を目にした時、社員が自分の意見を忌憚なく述べられる職場になっているでしょうか。社員の意見に対して、経営者や中間管理職が感情的にならず耳を傾けられるでしょうか。「不具合は起こすより隠す方が問題だ」という意識を持ち、社員の意見を吸い上げる仕組みや雰囲気の醸成が重要なのです。
社外取締役や顧問を置いたり、他の経営者と積極的に交流したりして、自分の思考や会社の方針が世間とずれていないか、メタ認知力を養いましょう。仮に、社外取や顧問を置くのであれば、自分とは利害関係の外側にいる人から選ばないと、自分に厳しい意見を言ってくれませんので、注意してください。
経営者の倫理感は世間と必ず乖離します。指摘されずに時間が経過すると、どんどんその差は開いていくでしょう。自分の価値観のずれを認識できる仕掛けを用意できなければ、経営者は務まりません。
絶対王政ではなく機能するトップダウンへ
内部統制とコンプライアンス意識のどちらかが欠けていても組織運営はうまくいきません。それこそ、ビッグモーターはコンプライアンス意識こそ皆無ですが、「経営陣の指示は何があっても実行する」という体制になっている点を鑑みれば、統制はきちんと取れています。ただ、方向性が反社会的でした。
もし、ビッグモーターにコンプライアンスが備われば、今からは想像もできないくらいの成長を遂げられるでしょう。だからこそ、買い手が付きそうになっているわけです。
いずれにせよ、内部統制の取れた組織をつくるためにルールの設定を始め、倫理観のずれを生まないためにも謙虚な気持ちで日々社内外の人と向き合う必要があります。機能するトップダウンと絶対王政は違います。日々変化する環境に柔軟に対応しながら、社会に必要とされ続ける会社を目指してください。そのために、本記事が参考になれば幸いです。
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