空前の人手不足が続く中、企業が“できる人財”を採用することは困難な状況になっています。そこで、日本マクドナルドの「ハンバーガー大学」で学長や、「ユニクロ大学」部長を務めた 有本 均氏の著書『全員を戦力にする人財育成術 離職を防ぎ、成長をうながす「仕組み」を作る』から、採用した人をできる人財に育てる方法を紹介します。

文 /有本 均

評価者の教育をしているか

私たちはここまで8年間に、100社を超える企業に対し、評価制度の導入支援を行ってきました。評価制度がないか、あるけれどなかなかうまくいかないという企業が対象です。うまくいかない、という企業の方と話をしていると、だいたいつまずきのポイントは共通しており、それは図4‒2に示したように5つに集約できます。つまり、この5つが見直しのポイントということになります。

順に説明しましょう。

1.評価者の教育をしていない

これが非常に多いケースです。というより、ほとんどの会社が評価者教育をしていないといっていいでしょう。これを放置していては、評価制度は人財育成という目的を達することはできません。

評価者としての教育を受けていないとどうなるかというと、例えば部下の評価点をつける根拠が曖昧であったり(言葉を選ばずに言えば「適当に」つけたり)、評価制度の意味を理解していなかったり、ただ会社に言われているからやる、といった消極的な姿勢になったり、ということが出てきます。また、社員の成長のためにきわめて大事なフィードバック面談がうまくいきません。

評価制度がうまくいかないのは、制度の中身そのもののせいだ、と考える経営者は多いのではないかと思いますが、そうではなく、多くの場合、評価者が評価のための教育を受けていない、というのが真因でしょう。

評価項目自体が間違っている、ズレている、などということは、実はそれほど多くはないのです。少なくとも、あるべきものと真反対の評価項目を設けるなどということはあり得ません。ですから、評価者教育をしっかり実行しさえすれば、育成に資する評価制度になる可能性は高いはずです。

このことをセミナーなどで指摘すると、ほとんど異論は出ません。評価者教育が、社員の育成に資する条件である、ということにはみなさん同意してくれます。ほぼ100%がそういう反応です。それは自分自身が評価者として、好き嫌いで評価したことがある、とわかっているからでもあります。客観的な指標のある業績評価はともかくとして、定性的な行動評価については甘辛があり得ますし、相手に対する好き嫌いという感情によって評価が左右されてしまうことは珍しくありません。

2.会社がしてほしいこと=評価項目になっていない

「会社がしてほしいこと=評価項目になっていない」というのは、例えば、経営者が常日頃、口やかましく言っていることを、一生懸命やっていても評価の点数に影響しない、などということを指します。サービス業では、しばしば見受けられることです。経営者は「やってもらいたい」から言っているのですから、それは評価項目に入れて、きちんと実行している人は評価するべきです。

経営者が現場に訪問して、「店が汚い!」と叱るような例もよくありますが、きれいにしたところで評価されないとなれば、それは「指導」ではなく「小言」にすぎません。社員だから怒られたらやりますが、それではその場しのぎになりがちなのです。怒られないためにやる、というのでは限界があります。

その先に、「いいこと」がないと続きません。「いいこと」とは、給与や評価による「見返り」です。

会社にとって大事なことこそ、ストレートに評価につながっている方がいいでしょう。それが経営理念の実現にもつながるはずです。具体的に言えば、「お客様満足/QSC」を評価項目に入れるべきでしょう。これこそがサービス業の利益にダイレクトに表れるものであり、それを重視してほしい、ということです。

将来像が見えない

3.キャリアステップ/将来像がイメージできない

これは第1章でも述べましたが、先々のキャリアステップ、つまり「仕事で頑張ればこうなる」ということが見えないと成長につながらない、ということです。仕事を続けていった結果、将来、どのぐらいの収入になるのか、どんなポジションに就けるのか、頑張ればこうなる、という見通しを明示する必要があります。評価制度は処遇に反映すべきものです。ところが、評価制度はあるものの、それが給与に反映されていないというケースが意外と多いのです。評価制度に合わせて給与体系を見直すことは、手間もかかるのですが、ここを怠れば評価が社員やスタッフのやる気や成長につながりません。

4.複雑でついていけない

評価を緻密に、漏れなくやっていこうとすると、仕組みが複雑になっていきます。評価することが負担になりすぎる制度は、うまくいきません。評価をつけることに、抵抗感を感じる人が増えていくからです。評価項目はなるべく増やすべきではありませんし、コメント欄なども増やさないようにします。

評価項目はざっくりしたものがいいでしょう。評価項目を細かくしすぎると、ピントがずれやすくもなります。それは評価者が、きちんと見きれなくなるからです。

一つ一つ、すべてを評価期間のうちに確認するということは、非常に難易度が高くなります。つまり、見ていない部分には点がつけられないはずですから、いい加減に点をつける項目が出ざるを得なくなります。見ていないはずの項目に低い点がついたとすれば、評価される側には不信感が生まれるでしょう。ですから、項目をざっくりと抽象化してまとめていった方が、ズレが生じなくて済みます。正確性を期そうと生真面目になりすぎると、項目はどんどん細かくなっていくものです。

ただし一方で、制度の運用自体については、手間を惜しんではいけません。「自己評価を◯月◯日に提出してください。評価結果は◯月から給与に反映させます」というように、約束をして、それを守る必要があります。そういう意味での運用です。手間を惜しんで「今回は評価会議はやめよう」などということになったら制度が形骸化していきます。

評価制度は、スタートするとみんなの仕事が増えていきます。確実に全社員が巻き込まれますから。手間がかかることは覚悟して始める必要があります。だからこそ、シンプルな内容にするべきなのです。

5.運用の責任者がいない。または、しっかりやっていない

これについては言うまでもないでしょう。運用責任者を決め、最重要事項として、評価制度に取り組んでもらう必要があります。

以上、5つの「うまくいかない理由」を見てきました。これらは、一つでも当てはまれば、評価制度はつまずく恐れがあります。ですから、一つ一つ、すべてを見直す必要があるでしょう。


有本 均(ありもと・ひとし)
株式会社ホスピタリティ&グローイング・ジャパン 代表取締役会長、グローイング・アカデミー学長。1956年、愛知県生まれ。早稲田大学政治経済学部入学後、大学1年生からマクドナルドでアルバイトを始め、1979年、日本マクドナルド株式会社に入社。店長、スーパーバイザー、統括マネージャーを歴任後、マクドナルドの教育責任者である「ハンバーガー大学」の学長に就任。2003年、株式会 社ファーストリテイリングの柳井正会長(当時)に招かれ、ユニクロの教育責任者である「ユニクロ大学」部長に就任。その後、株式会社バーガーキング・ジャパン代表取締役など、外食・サービス 業の代表、役員を歴任する。2012年、株式会社ホスピタリティ&グローイング・ジャパンを設立。 日本マクドナルド、ユニクロ等を経験して得た「人財育成のノウハウ」を活かし、世界中のサービス業の発展を目指す。

『全員を戦力にする人財育成術 離職を防ぎ、成長をうながす「仕組み」を作る』
有本 均 著 ダイヤモンド社

           

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