近年、海外旅行先として人気上昇中のタイ。急発展している首都・バンコクの刺激に触れるのもいいですが、タイの魅力はそれだけではありません。今回はガイドブックにもあまり載っていない自然豊かなタイ西部、ミャンマー国境と接するカンチャナブリー県を訪ね、ジャングルの中をハイキングしながらモン族の村に寄り、学校やお寺を訪問します。川に浮かぶ珍しいフローティング・ホテルでのユニークな過ごし方も紹介します。
モン族の村までハイキング
前回、ご紹介した第二次世界大戦中のキャンプ地だったホテル「ホーム・プートイ・リバー・クウェー・リゾート」(詳しい記事はこちら)から、歩いてジャングルを進みます。
様々な鳥や虫の声を聞きながら歩いていくと、さび付いた汽車が淋しげにポツンと展示されていました。映画「戦場にかける橋」の舞台から近いこの地域も、労働に借り出された捕虜たちが多かったのでしょうか? 汽車以外にも戦時中に使われた作業所など旧日本軍の拠点となった戦跡などが点在しています。
30分ほど歩くと、竹で編まれたモン族独特の高床式の家を発見しました。ここが村の入り口のようです。モン族とは東南アジア一帯に暮らす少数民族で、主にミャンマーとタイ国境に多く住んでいるのだとか。現在、この村には政情不安からミャンマーから移ってきた約80人ほどのモン族が暮らしているそうです。
入り口で竹かごを器用に編んでいたおじいさんが、「よかったらうちにどうぞ」とご自宅に招いてくれました。シンプルな外観とは違って、中にはびっしり家族やスターの写真、仏教のポスターが貼られています。「せっかく竹で編んだ通気性のいい壁なのに、びっしり貼ってあって暑くないのかしら?」と首をひねりましたが、賑やかな壁がいいのでしょう。
この家には、カリヨンさんと夫、息子ふたり、カリヨンさんのおじいさん、おばあさんの6人が住んでいます。朝5時に起きて夜9時には寝る健康生活。しかし、旦那さんもカリヨンさんも仕事がなく、現在、就職活動中。「この間まで祖父母に子供を預けて、ヤシの実の加工工場で働いていたんだけど、契約が終わってしまって」とカリヨンさん。ジャングルにいけばフルーツがなり、小川では魚が獲れるので食べ物には困らないけれど、子供の教育のためにも現金は必要とのことです。
家の奥に台所があり、覗いてみると、おばあさんが川魚の塩漬けを作っています。「そんなに珍しい?」と笑うおばあさん。何十匹もの魚を丁寧に丸太の上でさばいていきます。
さあ、村の中を歩いてみましょう。仏教を信仰しているモン族の村の敷地内にはお寺があり、ミャンマーの有名な崖上の仏塔「ゴールデンロック」を模した金色の岩も祀られています。
なんだか愛嬌のある仏さまの顔を「友達の顔に似ているなぁ」とまじまじと見ていたら、先に歩いていた人たちが「象が来たぞ!」騒いでいます。さすが、ジャングル。木材を運んだり移動の足代わりになったりと、今もタイでは象が活躍しています。
続いて、村の学校へ。モン族の子供たちも普段はタイの学校に通っているのですが、モン族の言葉や文化も忘れずに学んでほしいと、村の父母が日曜学校を建てたそうです。
3~4歳から12歳くらいの40人ほどの生徒を、30歳くらいのモン族の男性教師が教えています。聞けばボランティアだとか。若いのに立派です。
川に浮く水上ホテルへ
学校の取材を終え、村のはずれまでくると、視界が開けて川に出ました。よく見ると、川沿いに長い茅葺き屋根の家々が浮いているのが見えます。
「あれはリバー・クウェー・ジャングル・ラフツというリゾートホテルですよ」とガイドさん。なんと、このホテルには電気が来ておらず、部屋の灯りはランプのみ。岩を削ったりして建てたのではなく、水上に浮かぶ環境に優しいフローティング・ホテルなので、船が波しぶきを上げて通り過ぎると、全室がまるで地震にあったかのように、グラグラ揺れるのです。でも、タイ人観光客はあまり気にしません。普段からハンモックに揺られているからでしょうか?
ホテルの廊下にも、いくつもハンモックがあり、本を読んでいる人、ただ川を眺めている人など、みなさん、思い思いにのんびりと過ごしています。
家と船が一体化したようなホテル、なんとも楽しそうです。今夜はランプの光でのんびりと…と思いきや、お迎えの船がきて全員、乗せられてしまいました。
「ああ、川に浮かぶホテルに泊まりたかった」と残念がっていると、突如、さきほどのホテルを何倍にも立派にしたフローティングホテルが現れました。
リバー・クウェー・リゾート・ホテルといって、最初に見た長屋のようなホテルと同じ系列なのだそう。客室棟はすべて独立したコテージで、それぞれにテラスもついた豪華な造りです。
我々の船が着くと、従業員たちが手を合わせてお出迎えしてくれました。
三角屋根のコテージに入ると、ベッドには蚊よけの天蓋がついていて王様気分。ベッドにごろごろと横になりながら、川の眺めを楽しむことができます。
人間が目の前を流れていきます
さっそくテラスに出ると、船ではなく、人間がスーッと流れていきます。「え? なぜ?」と上流に目を向けると、このホテルに宿泊しているお客さんたちが、上流からドボン! そして下流のコテージの横から這い上がっているのが見えます。
これはおもしろそう! さっそく同じツアーのおじさんとふたりで、救命胴衣を着て、レストランの前からバッシャーン!と飛び込みます。
タイの川は細かい土が混ざっているためか、日本のように透明ではありません。飛び込んでから、「ワニとかいても、この濁り具合では気づかないではないか!」と不安になったのですが、川の流れは意外に早く、どんどん下流へと流されていきます。
従業員に「這い上がるポイントを間違えると、帰れなくなるから気をつけて」と言われていたのですが、先に飛び込んだおじさんが川の中央へと流されていきます。
「うわー、流れが強い!」
「大丈夫ですか!? もうすぐ上陸ポイントですよ! 川岸に寄って!」
「うおっ、掴み損ねた!」
梯子を掴み損ねたおじさんが、さらに下流へ流されていきます。あわてふためくおじさんに、ウッドデッキの人たちが「もうひとつ先に梯子があるよ!」と教えてくれました。必死に泳いで掴まり、なんとか上陸。あやうく戻れなくなるところでした。
川遊びをしているうち、お腹がすいてきました。周囲には、このホテルの電気以外に光るものはありません。夕暮れ時のレストランにみんなで集合してタイのビールで乾杯!
アドベンチャーな一日を振り返りながら、夜も更けていきます。これからのリゾートは海、山よりも川! ボートで上陸し、川の上で一日をのんびり過ごす。ここは最もタイらしいホテルかもしれません。
さて、5回にわたってタイ西部のエコツーリズムをご紹介してきました。ここは治安もよく、食べ物も豊富で、人々もおだやか。いつものバンコクから少し足を伸ばして、おいしいフルーツが実るジャングルやリバー・リゾートを楽しむ旅に出かけてみてはいかがでしょうか?
取材・文/白石あづさ
旅ライター。地域紙の記者を経て、約3年間の世界旅行へ。帰国後フリーに。著書に旅先で遭遇した変なおじさんたちを取り上げた『世界のへんなおじさん』(小学館)。市場好きが高じて築地に引っ越し、うまい魚と酒三昧の日々を送っている。
取材協力/タイ国政府観光庁