取材・文/出井邦子 撮影/馬場隆
夫人が体調をくずしたのを機に、自らブランチ作りに挑戦。今では、野菜を欠かさぬオリジナル献立が健康の源である。
【宮田了さんの定番・朝めし自慢】
昭和36年、東京・渋谷に中国料理店が誕生した。広東料理の『南国酒家』である。その社主(オーナー)である宮田了(さとる)さんが語る。
「父・慶三郎は歯科医師で、医学博士でした。アメリカの学会に出席した折、ワシントンで目にした高層マンションに感銘を受け、日本初のマンション『渋谷コープ』を開発します。その1階と地下1階に作ったのが『南国酒家』で、料理長は中国人で父がオーナー。食道楽だった父らしい。その4年後、東京・神宮前に『コープ・オリンピア』が完成すると2号店が開業し、ここが今の原宿本店です」
慶三郎氏は歯科医でありながら不動産会社や中国料理店の経営にも携わり、さらに晩年には明海大学(旧城西歯科大学)や朝日大学(旧岐阜歯科大学)を創設してもいる。医師、実業家、教育者と実に多彩な人であった。
了さんは3人兄弟の次男として、東京・豊島区に生まれた。慶應義塾大学経済学部を卒業後、丸善石油(現コスモ石油)に入社するが、3年後には父に請われて、立ち上げと同時に『南国酒家』に入る。八面六臂の慶三郎氏でも、さすがにレストラン事業までは目が届かなかったのだろう。
塩分と糖分を控える
宮田さんはもともと夜型の朝寝坊で、若い時分から朝食よりもブランチ派。今も第1食目は、事務所兼書斎で摂るブランチだ。
「食事に気を遣ってくれていた妻が2年ほど前に体調をくずして入院。以来、妻の負担を軽くするために宮田流簡単創作ブランチを自分で作ることにしました」
そのポイントは(1)塩分控えめ、(2)糖質控えめ、(3)唐辛子、タバスコ、黒酢などの好物を使う、(4)おやつは果物や小魚、ナッツ類、カカオ増量のチョコレートなど、(5)腹八分目、の5つである。減塩のために納豆には添付のタレを半分だけかけ、炒り白胡麻で風味を足すという工夫、徹底ぶりだ。
月に2~3度の楽しみは『南国酒家』の元料理長で、今は後進の指導に当たっている宮川晃次さんが届けてくれる、宮田さんのための特製ブランチだ。
「このブランチと、特別な日に許しているスパゲティなどの糖質が一番のご馳走です」
●元料理長が作る社主のための特製ブランチ
木曜の午前中はジムで体を鍛え、午後は囲碁サロンで脳を鍛える
毎週木曜日の午後1時頃から三々五々、人が集まってくる。宮田さんが事務所の一室で開催している囲碁サロン“木曜会”のメンバーだ。社長の職を息子に譲った後、囲碁好きが高じて5~6年ほど前から開いているものだ。
「参加者の腕前は問わない。初心者も大歓迎です。第1、第3木曜日には日本棋院普及指導員の講士、西實先生の指導碁もあります」
宮田さんに囲碁の手ほどきをしたのは父・慶三郎氏。だが、小学6年生か中学1年生の頃には、宮田さん曰く“田舎初段”の父を抜くほどの腕前だった。30~40年前からは月に2回、平成28年に亡くなった小杉勝八段に個人指導を受けてきたという。
「僕の棋風は、ひと言でいうと負けず嫌い。父と打っていた子供の頃、負けて碁盤の上に落とした涙は未だ記憶に新しい。終わると、カラッとしてるんだけどね」
宮田さんにとって、木曜日はかけがえのない一日。午前中はスポーツジムで体を鍛え、午後からは囲碁で脳を鍛える。宮田流簡単創作ブランチと、この木曜日が心身の健康を支えている。
取材・文/出井邦子 撮影/馬場隆
※この記事は『サライ』本誌2020年1月号より転載しました。年齢・肩書き等は掲載当時のものです。