取材・文/出井邦子 撮影/馬場隆
三千院門跡門主となって6年。堀澤祖門老師の健康は、梅干しの種まで呑む朝の精進料理と、自ら考案した体操が支える。
【堀澤祖門さんの定番・朝めし自慢】
“京都 大原 三千院……”と、流行り歌にもなった三千院。その62世門主が堀澤祖門さんである。
「ここ三千院はもともと比叡山上にあった天台宗の宗祖、伝教大師最澄のご住房に始まります。その後、皇子皇族が住持する宮門跡となり、場所と名前を変えながら明治に入ってこの大原に居を定め、名前も三千院になったのです」
その最澄開基の比叡山延暦寺に「十二年籠山行」という静かなる荒行がある。「千日回峰行」が“動”の修行なら、こちらは“静”の修行といわれ、12年間比叡山中に籠り、下山は厳禁。最澄の遺体がある浄土院で毎日、食事を供え、掃除、読経、礼拝などのお勤めをするというものだ。昭和39年、この十二年籠山行を戦後初めて満行したのが、堀澤祖門さんである。
昭和4年、新潟県小千谷市に生まれた。旧制新潟高校に入学し、“再誕”というテーマに出会う。自分を生み直すという意味だが、これが自らへの根源的な問いかけとなり、その問題を解決できぬままに京都大学に入学する。
「大学では、私の心の琴線に響くものは何もなかった。そんな時、比叡山に呼ばれているような気がして、初めて登頂。そこで出会ったのが、叡南祖賢老師でした」
大学を中退し、出家得度。求道遍歴を積み、比叡山に帰山後は、後進の指導にも当たってきた。
茶で梅干しの種を呑む
堀澤老師の毎日は規則正しい。4時30分起床、洗面。4時45分から45分ほど坐禅を組んだ後、朝の勤行を15分くらい。30分ほどの筋力体操を終えた後、毎朝の剃髪。朝食は7時頃だ。
「十二年籠山中は3食とも精進料理で、豆腐と油揚げと蒟蒻が三種の神器でしたが、今は朝食だけが精進の献立。朝食前に昆布水を飲み、梅干しの種まで丸ごと呑み込むのが、私の健康法のひとつです」
梅干しの種には健胃・胃潰瘍、下痢・便秘、動悸・息切れ、肝機能障害などに効能があり、種は体内で溶けるのだという。ただし、未成熟の青梅の種にはアミグダリンという物質があり、食中毒の危険があるので完熟の種に限る。
卒寿にして艶やかな顔色と朗々と響く声、矍鑠たる姿。これは梅干しの種のお陰かもしれぬ。
仙骨健康法と筋力体操で疲れしらず。求道の旅は続く
堀澤老師が、長年の経験から考案した健康法がある。仙骨健康法と筋力体操法である。
「仙骨とは尾てい骨の上部にある逆三角形の平たい骨。その上部の真ん中の一点を仙骨点と呼び、立ったままこの仙骨点に両手の親指を並べて当て、親指を前のほうにリズミカルに押し出す。1日200~300回ほどがお勧めです」
この運動を続けることにより全身の細胞や血管に刺激を与え、やがて全身が活性化するという。もうひとつ、10年ほど前から日課としているのが筋力体操法だ。
「体力が落ちるとは、筋力が落ちること。私が毎日している運動の中から、上体の運動を紹介しましょう。これを実践するだけで、確実に筋力アップになります」
軽く両足を開いて頭の右回転、左回転を20回ずつ。次に顔を左と右に交互に20回ずつ。写真の8の字運動を30回ほど。これに続いて手と足の運動があるのだが、これらを毎日30分続けることで、まず風邪を引かなくなり、生命力が全身にみなぎるという。
食事と運動。ふたつの健康法で、求道の旅はまだ続く。
取材・文/出井邦子 撮影/馬場隆
※この記事は『サライ』本誌2019年8月号より転載しました。年齢・肩書き等は掲載当時のものです。