土佐鍛冶の技を未来へ。親子2代で挑む、伝統と革新の刃物づくりは、さらなる若き世代へと受け継がれてゆく。
伝統技法に新たな息吹を加える
JR高知駅から土讃線で約30分、土佐打刃物発祥の地として知られる土佐山田に鍛冶場を構える「秋友義彦鍛造所」では、父・秋友義彦氏と子の秋友祥造氏の親子二人で、伝統技法に新しい息吹を加えた刃物づくりを行なっている。
「うちはもとは鉈鍛冶で、農作業に使う刃物や市場で魚を捌くための刃物を注文に合わせてつくっていました」と語る祥造氏。使い手によってそれぞれ異なる形状が求められる注文刃物をつくり分けるのは、鍛造から仕上げまでを一人の職人が一貫して担う「自由鍛造」を特徴とする、土佐打刃物ならではの強みだ。
しかし、そんな土佐打刃物も近年では需要が減ってしまい、冬の時代を迎えたという。「子供のころには地区で300ほどの鍛冶屋が軒を連ねていましたが、この10年ほどで3軒にまで激減しました」と祥造氏は述懐する。事態を憂慮した祥造氏はそれまで勤めていた会社を辞めて、鍛冶屋を継ぐ道を選んだ。15年前のことだった。以来、父・義彦氏に師事して刃物づくりを学びつつ、オリジナルナイフブランド「レッドオルカ」を立ち上げた。
子の祥造氏がナイフをデザインし、父の義彦氏が匠の技を駆使して刃を打ち上げる。それに祥造氏が磨きをかけ、握りや鞘を付けて完成まで仕上げる。
そんな父子の共同作業でつくられる「レッドオルカ」の美しいカスタムナイフは、打刃物の新しい市場を切り拓き、ロシアなど海外からも熱い注目を集めている。
若い鍛冶屋の育成をめざして
しかし父・義彦氏は現在すでに74歳。まだまだ元気でその技術も健在だが、いつまで現場に立てるかわからない。「土佐の鍛冶屋のほとんどが高齢化し、このままだと刃物づくりの技術が失われてしまいます。そうしないために、今自治体と鍛冶屋連合会が一緒になって“鍛冶屋の学校”をつくろうとしています。まだ教える人がいるうちに、若い世代に刃物づくりの技術を伝承して、鍛冶屋を育成することが狙いです。刃だけでなく、柄や鞘といった木工部分も職人が足りなくなっているのです。私も後進を育てるために、指導者として貢献していきたい」と、祥造氏は決意を語った。
【今日の逸品】
秋友義彦鍛造所のレッドオルカ・ダマスカス三徳包丁とペティナイフ
秋友義彦鍛造所
32,400円~(消費税8%込み)