太平洋に面し、三方を山に囲まれた自然豊かな台湾の宜蘭(イーラン)県。台北からバスで約1時間と気軽にアクセスできる新しい観光地として、今、注目を集めています。まだ知られていない宜蘭県の農場や食、夜市など、ぜひ訪れてほしい場所を数回にわたり紹介していきます。
イーランってどこ?
「イーランに行きませんか?」
「イラン?」
「いえいえ、イーラン(宜蘭)! 台湾ですよ」
取材ツアーのお誘いをいただいたものの、いったいイーランとはどこなのでしょう。あわてて地図を広げてみたら、台北のすぐ東にある県でした。今、日本では台湾が旅先として、とても人気ですが、ほとんどの旅行客は台北だけ観光して帰ってしまいます。そこで、お隣の宜蘭県が、「うちにもたくさん見所があるので、ぜひ日本人に知ってほしい!」と名乗りを上げたようです。
魅力的な海も山も牧場もあるのに、海外からのお客さんは皆、東京に行ってしまう……日本でいえば、千葉県のような立ち位置でしょうか? 大都会よりも田舎が好きな私はふたつ返事で台湾に向かいました。
貯金をはたいて農場を作った卓さん
台北から高速道路を走り宜蘭へと向かいます。台湾で一番長いトンネル「雪山隧道」(全長12.9km)を抜けると、そこは雪国……ではなく、緑いっぱいの田んぼが広がる宜蘭県の頭城(トウチェン)。台湾では、近年、ネイチャーブームで、たくさんの観光農場が点在していますが、そのなかでも「頭城休閒農場」(頭城レジャーファーム)は36年の歴史を誇る農場です。
東京ドーム約25個分の広さに、田んぼや畑、果樹園のほか、宿泊施設やワイナリー、レストラン、カフェが点在しています。農業体験をしながら新鮮な野菜を楽しみ、夜はワインを片手に満点の星を眺めることができます。
そんな「台湾の田舎暮らし」が体験できる「頭城休閒農場」のオーナーは、卓陳明さん(76歳)。一代で観光農場を切り開いた“スーパーおばあちゃん”と地元では呼ばれているそうですが、実年齢より20歳くらい若く見えるのは、無農薬の野菜を食べているからでしょうか?
昼は教師、夜は縫製工場の経営をしていた卓さんが農場を始めようと決意したのは40歳の頃だそうです。
「都会の暮らしもいいけれど、子供のころ、楽しかった田舎を思い出したんです。それに、台湾は便利で豊かになりましたが、子どもたちに生命力がなくなっていくのを感じました。大自然のなかで遊んで、生命力を取り戻してほしい。命に触れ合える場所を作りたいと、土地を見つけ、貯金をはたいて農場を作ったんです。友達には『安定した生活を捨てるなんて!』とびっくりされましたけど」(笑)
家族と少しずつ開墾し、今では宜蘭県で一番大きな農場に。現在、500人が宿泊できる施設も備えており、サマーキャンプの場所としても人気があるそうです。
パンのなかから鳥が出てきた!
それではさっそく、農場自慢のお料理をいただきましょう。魚介は朝、市場で買ってくるそうですが、野菜や肉は、ほとんど農場で獲れたもの。
トマトの酢漬け、野菜とサーモンのスープなど、すべての料理が新鮮で味が濃く、感激していると、何やら大きなパンのようなものがワゴンでガラガラと運ばれてきました。
そしてシェフがハサミを取り出し、チョキチョキとパンの周囲に切れ目を入れ、パカッと上部分をはずすと、なんと中から紙に包まれた鳥が! ほかほかと湯気が立ち上り、スパイシーないい香りがします。
これは、レストランオリジナルの肉料理「麺包鳥」(メンポオチー)。パン生地で鳥を包み、アルミホイルでさらに包んで窯で焼くと、味が閉じ込められておいしくなるのだそうです。この世の幸せのすべてが詰まっているような、おいしくて楽しい料理に農園自家製のワインがどんどんすすみます。
農場をまわると…
さあ、いつまでも酔っ払ってばかりはいられません。卓さんの案内で農場をまわります。昔の農機具は今も使われていて、米の麺を作るため、石臼で米粒をつぶす体験もできます。76歳の卓さんがさくさくと動かせるのに、やってみたら、これがなかなか難しい。へっぴり腰で右往左往していたら笑われてしまいました。
約40種類の野菜畑や美しい果樹園のほか、ハーブ園や小川の上に作られた大白斑蝶のための昆虫棚、お菓子やパンを焼ける窯などを見て回ります。家畜と触れ合ったり、キンカンを漬ける体験もできるそう。
畑に向かう途中、石版に彫られた卓さんの詩を発見しました。
「緑をひと束摘み、フレッシュな香りを嗅ぎ、ひと口食べて、健康の甘さを噛み締める。そして、ゆったりとした人生を楽しむ。自分も動物も食べ物も、すべてのものが健康であれ」と書かれています。
ゆったりとした人生……農場内を飛び回り、お客さんをもてなし、大忙しの卓さん、とても詩のような人生を楽しんでいるようには見えないのですが、「おばあちゃんの田舎に来た雰囲気を味わってもらえたら」と微笑みます。
ランチ、アクティビティ、ガイドなどすべて込みで1日1200元(約4000円)ほど。台北から日帰りもできますが、ぜひ1泊することをおすすめします。
URL:http://www.tcfarm.com.tw/jp
■取材協力
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