文/中村康宏

超高齢社会に足を踏み入れたわが国では、高齢者が総人口の1/4 以上を占めるに至っています。この高齢化はさらに進行し、2050年には後期高齢者の割合も1/4に到達することが予測されています。

この人口構造の変化は、日本の疾病構造にも変化をもたらしました。さらに、病気を持ったまま長生きすることで、多診療科にまたがる疾病や病態が問題となり、「病気で死なないようにする」ことの他に「寝たきりを予防する」ということを考えなくてはいけなくなりました。

今回は、最近クローズアップされることが多い「サルコペニア」と「フレイル」について解説します。

サルコペニアとは?

加齢とともに骨格筋量・筋力が低下することは、一昔前では単なる加齢現象と考えられていました。しかし、この状態がふらつきや転倒、さらには要介護状態の原因として問題視されるようになり、極端に筋肉量が減少し、筋力が低下する状態を「サルコペニア」と呼ばれるようになりました(※1)

サルコペニアは加齢の他に炎症、酸化ストレス、ミトコンドリア機能低下、低栄養、過剰な安静、がん、臓器不全などが原因で起こります。明確な診断基準は定められていませんが、握力(男性で26 kg以下、女性で18 kg以下)や歩行速度(0.8m/秒以下)などが目安とされています(※2)

フレイルとは?

一方、フレイルとは「体の予備力が低下し、身体機能障害に陥りやすい状態」と定義されています。体重減少、疲労感、筋力・握力低下、活動量低下、歩行速度の低下の5項目のうち、3つ以上に当てはまると「フレイル」、1~2個当てはまる場合は「プレフレイル」と呼びます(※3)

フレイルの原因は、サルコペニアや低栄養、機能障害が重複したり、単なる老化現象でも起こります。放置すると、将来の転倒、移動障害、日常生活動作障害、入院、生命予後に関連しますが、運動や栄養などによって健康状態に戻ることができる(=予防できる段階)ということがもっとも重要な点です(※4)

サルコペニアとフレイルの違いは?

この説明を読んで「両者は同じなのでは?」と思った方も多いと思います。まさに、両者はかなり重複しており、サルコペニアはフレイルの原因の一つで、フレイルの状態の中でも、特に「筋肉」に注目した概念と言えます。

フレイルサイクル:様々な原因(低栄養、疾患、加齢)によって筋肉量が減少(サルコペニア)すると、筋力が低下し、歩行速度が遅くなり、身体活動量が少なくなり、疲れやすくなる。また、筋肉量が減少すると基礎代謝が低下し、消費エネルギーも減り、食欲が低下し、体重が減少し、低栄養になりやすくなる。そして、低栄養は筋肉を減少させサルコペニアをさらに悪化させるという悪循環を起す。(医学書院)

なぜ「フレイル」「サルコペニア」が重要なのか?

両者は寝たきりや認知症との関連が強いことも指摘されています。厚生労働省によると、フレイルは寝たきり原因の実に半分以上を占めるのです(30%は生活習慣病関連が原因)。要介護にならず自立した生活を送るためには、健康と要介護の中間の段階から対策を立てる必要があります。

「フレイル」「サルコペニア」を予防するためには

サルコペニアとフレイルの予防・治療には「運動介入」と「栄養介入」が存在します(※4)

運動では、レジスタンス運動(いわゆる筋力トレーニング)を行うことが大切です。具体的にはエルゴメーターやスクワット、片足立ち、水中歩行などがあります。

運動にあたり注意すべき点は、何らかの病気を抱えている人やすでに筋力が落ちている人がほとんどですので、事前に医師による評価と正しい実戦を心がけてください。間違った方法で行うとケガにつながります。また、タンデム歩行などのバランス運動も転倒防止には必要です。こちらも指導者のもと行うことが望ましいでしょう(※5)

食事は、腎臓病・肝臓病でたんぱく制限を行っている場合を除き、十分なエネルギー量とタンパク質を取ることが大切です。過度の糖質制限やエネルギー制限は逆効果です。筋肉が分解されサルコペニアを助長することになりますので注意してください。バランスのよい食事を心がけ、体重が減らないようにしましょう(※6)

生活上の注意点としては、ケガをしないことです。転倒などに注意すると同時に、家の段差やつまずきやく原因になる要因を改善しましょう。また、社会的孤立による活動範囲の狭まりがフレイルやサルコペニアの原因となることもあります。家族、友人、地域コミュニティとのつながりを意識しましょう(※7)

*  *  *

以上、今回は注目を集めている「サルコペニア」と「フレイル」について解説しました。これらは「健康寿命の延伸」という観点から非常に重要な概念であり、介護・寝たきり状態を予防できる最後の砦です。

今後、さらにサルコペニア、フレイルに相当する高齢者が増えていくことが予想され、ごく身近なリスクになってきます。ぜひ、これらに注目していただき、健康寿命の延伸につなげましょう。

【参考文献】
※1.Am J Clin Nutr 1989: 50; 1231-3
※2.J Am Med Dir Assoc 2014: 15; 95-101
※3.J Gerontol A Biol Sci Med Sci 2001: 56; M146-56
※4.J Am Med Dir Assoc 2015: 16; 690-6
※5.日本医師会雑誌 2015: ロコモティブシンドロームのすべて
※6.Clin Nutr 2014: 33; 929-36
※7.J Am Med Dir Assoc 2012; 720-6

文/中村康宏
関西医科大学卒業。虎の門病院で勤務後New York University、St. John’s Universityへ留学。同公衆衛生修士課程(MPH:予防医学専攻)にて修学。同時にNORC New Yorkにて家庭医療、St. John’s Universityにて予防医学研究に従事。

 

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