選評/林田直樹(音楽ジャーナリスト)

名づけようのないもの、既成のジャンルに当てはまらないもの。真に新しく面白い音楽は、しばしばそういった形態をとって現れる。オランダのサクソフォン四重奏団、アートヴァークもまたそのひとつである。

艶々と色っぽく、ときに浮遊感を漂わせ、ときに軽妙な、都会風の危険で官能的なサウンドは、ジャズを基本としながらも、それだけにはとどまらない。

待望の彼らの新作『トランス』(直訳すれば“ 恍惚”の意)は、「トリュフ豚のための交響詩」という奇妙な副題がつけられていることに象徴されるように、珍味かもしれないが、鼻の利く人にとってはまたとない美味な音楽でもある。

全体が統一感をもった組曲のようになっているなか、「闇(ダークネス)」「神格化(アポテオシス)」といった楽曲の神秘性はとりわけ興味深い。

雰囲気ある大人の夜の時間を過ごすための、よきパートナーとなることだろう。

【今日の一枚】
『トランス』
アートヴァーク(サックス四重奏)
2017年録音
発売/アルボーレ・ジャズ
電話:080・1552・3900
商品番号/OINK-011702
販売価格/2380円
http://wmg.jp/ 

写真・文/林田直樹
音楽ジャーナリスト。1963年生まれ。慶應義塾大学卒業後、音楽之友社を経て独立。著書に『クラシック新定番100人100曲』他がある。『サライ』本誌ではCDレビュー欄「今月の3枚」の選盤および執筆を担当。インターネットラジオ曲「OTTAVA」(http://ottava.jp/)では音楽番組「OTTAVA Salone」のパーソナリティを務め、世界の最新の音楽情報から、歴史的な音源の紹介まで、クラシック音楽の奥深さを伝えている(毎週金18:00~22:00放送)

※この記事は『サライ』本誌2018年1月号のCDレビュー欄「今月の3枚」からの転載です。

 

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