談/辰巳芳子(料理家)

北海道から立派な生の鮭が届きました。漁船で獲れたばかりの鮭を船上で〆め、軽く塩をして、すぐに送ってくださるから、とても新鮮です。

私は、この立派な鮭を前にして、さて、どのように酒の肴にしようか、と考えました。

まずは半身をローストビーフのようにローストしよう。これはワインが合う。鮭のローストは、塩こしょうをして、仕上げにニンニクを炒めてケイパーとオリーブの実を加えたものをざっとかけまわす。サフランライスを合わせるのは、私がスペインの家庭で料理を学んだから。普通、料理人はこういう発想はしないでしょう。

もうひとつ、少し保存がきく調理法としては、切り身にした鮭を濃口醤油に漬け込んで、照り焼きにする手があります。これは熱燗でいただくのがいいですね。

照り焼きには、ヒゲタ醤油の玄蕃蔵がいい。ヒゲタ醤油が限定醸造し、年に1度しか出荷しない「玄蕃蔵」は、濃厚な醤油の味が赤身の魚の生臭さを消し、牛肉の旨味には寄り添います。赤身や肉に普通の醤油では弱すぎるのです。

さらに保存の効く食べ方としては、鮭をスライスして昆布締めにして、鮭の押し寿司を作ります。さらに、残った鮭はお酒をかけまわして焼き、そぼろに炒めてから瓶に詰めて保存します。いつでもご飯にかけて食べられる常備菜です。

このように、調理法を変えながらひとつの食材をうまく食べ切る方法は、鮭に限らず知っておいてほしいことです。なぜなら、ミサイルが頭上を飛ぶような時代には、何を食べるか以上に、どう食べていくかが大きなテーマだからです。食材を食べ延ばす知恵を身につけなければならない。ちょっとしたことで食べられたり、食べられなかったりするかもしれない時代ですから。

今の人たちはそのような考え方の練習量が少ないと思います。練習量が少ないと、いざという時に役に立ちません。むしろ男の人は仕事を通して、ある意味「考える練習量」があるから、男の人に向いているかもしれません。これからの時代は、一つの食材をどのように食べていくかを、展開的に考える練習をしなければなりません。そして、それは仕事の展開を考えて頭を使っている、練習量の多い男の人が、できやすいのではないでしょうか。

もうひとつ、北海道広尾町には素晴らしい食材がたくさんあり、この見事な鮭もそれを捕る漁師さんがいるからこそ。私たちは、料理して食べることで漁師さんを支えることができる。そのために私はこのようにご紹介したいのです。

談/辰巳芳子(たつみ・よしこ)
料理家。1924年生まれ。聖心女子学院卒業。家庭料理、家事采配の名手として今も語り継がれる母、辰巳浜子の傍らにあって料理とその姿勢を我がものとし、独自にフランス、イタリア、スペイン料理も学び、広い視野と深い洞察に基づいて、新聞、雑誌、テレビなどで日本の食に提言しつづけている。 近年は、安全で良質の食材を次の世代に用意せねばとの思いから「大豆100粒運動を支える会」会長、「良い食材を伝える会」会長、「確かな味を造る会」の最高顧問を務める。

【辰巳芳子さん推薦】
船上活〆秋鮭「広輝」

厳選した銀毛オス鮭を網上げ直後、船の上で活〆(血抜き)処理した生の鮭。活〆は生臭みを抑えて美味しさを引き立たせるだけではなく、身の色を鮮やかに保ち、鮮度を維持します。今年は鮭がかつてないほどの不漁で、1日に2、3匹しか獲れない日も。冷凍せずにチルドで発送。鮮度と質の高さは類を見ない。

発送は1匹単位からなので、自分で捌けない人は、購入してから、近くの魚屋さんに好みの大きさに捌いてもらうと安心。11月になると水揚げが少なくなり、「広輝」というブランドの基準の秋鮭が水揚げされなくなるので、注文の受付は10月いっぱいぐらいまでとなる。

1匹(4キロ程度)で12,000円〜15,000円。お問い合わせは電話で 01558-2-5570 (広尾産業流通振興公社)まで。ウェブサイトは http://www.hirooshunsenbin.com(広尾旬鮮便)


【辰巳芳子さん推薦】
限定醸造醤油「玄蕃蔵」(ヒゲタ醤油株式会社)

江戸造り醤油「玄蕃蔵」(げんばぐら)は、ヒゲタの醤油造りの原点「天・地・人」すなわち、天の恵みである原料と、銚子の気候風土、そして先人の心と技にこだわって醸造された特別な江戸造り醤油です。

原料の大豆は富山県産「エンレイ」、小麦は北海道産「春よ恋」、食塩は香川県産「瀬讃の塩」を使用し、江戸初期からの伝統の製法で、年に一度だけ仕込まれます。価格は450ml 密封ボトルで1800円(消費税込)。ご注文は下記の茂仁香オンラインショップより。お問い合わせは info@tatsumiyoshiko.com までメールでお願いします。

【茂仁香オンラインショップ】
http://monika.co.jp/?pid=3143238

撮影/小林庸浩、構成/尾崎靖(小学館)

【サライ.jpで読める辰巳芳子さんの記事】

※ 辰巳芳子さん考案の使いやすい「まな板」

※ 辰巳芳子さん考案の「すりこぎとすり鉢」

※ 辰巳芳子さん考案の「しゃもじと物相(もっそう)」

※ 男の酒肴かくあるべし!北海道・広尾のししゃも

※ 地元でも愛される北の珍味!北海道・帯広『牧野水産』の「塩辛」

※ 疲れた心を養ってくれる!あさりのオリーブオイル炒め

※ 夏の酒肴は“生湯葉にめんつゆ”がいい

※ いい生鮭が手に入ったら作ってみたい酒肴2つ

※ ワインにも合う「八丁味噌の田楽」をガラス鍋で楽しむ

※ 酒盃に柚子一片の色気を添えて「うるめいわしの丸干」を頂く

 

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