文/鈴木拓也

リスキリングやリカレント教育といった言葉が流行し、社会人も勉強することが当たり前の時代になった。
しかし、十代の頃のような時間的な余力はなく、三日坊主に終わってしまう。また、続けてはいても、なかなか覚えられないという方もいるだろう。
そうした悩みを抱えている方に、科学的に立証された正しい勉強法をすすめるのは、下関市立大学教養教職機構の佐々木淳准教授だ。
佐々木准教授は、海上自衛隊の航空学生を相手に、数学教官を長年務めた経験の持ち主。航空学生は、多岐にわたる専門科目を履修するが、自習に充てられる時間は就寝前のわずか1時間。そのため、自衛隊では、無駄のない科学的根拠に基づいた教育が徹底され、学生も効果の高い自習法が求められる。成績が芳しくなければ、脱落は必至だからだ。
佐々木准教授は、教官としての経験もふまえ、確実に効果の出る勉強法を1冊の本にまとめた。それが、『科学的根拠+αで成果を出す 戦略的勉強法』(あさ出版 https://www.asa21.com/book/b670495.html)である。
わかりやすい授業動画の落とし穴
最近は、有料・無料を問わず、インターネット上で視聴できる授業動画がずいぶんと増えた。内容もわかりやすく、「これならしっかり学習できる」と思われることだろう。
しかし、ここに落とし穴があるという。内容の理解、記憶の定着が伴わないのである。佐々木准教授は教官時代、時代に先駆け動画学習が導入された話を記している。この方法は数年間続けられたが、学生たちの理解度は思うように高まらず、廃止されてしまったという。ただ、「見ているだけでは不十分」なのである。
では、どうすればいいのか?
佐々木准教授は、「身体動作」を伴う行動の必要性を挙げる。
つまり、勉強は見ているだけでなく、「自分の手を使ってノートに書いたり、計算したり、公式を使う、音読する」など、身体動作が伴わないと、テストなどで実際に動けず、結果に結びつかないのです。
(本書24pより)
と説く。
そしてスマホは、動画を見て「わかった気分」を助長しかねないアイテムだとも。手軽なだけに、スマホを見ながらノートを取るという気分にはなかなかならず、学習効果もさっぱり上がらないという結果に…。もし動画で学びたいのであれば、テレビやパソコンの画面で視聴し、しっかりノートを取るようアドバイスしている。
学習効果を高める「質問」の威力
対面の講座でも、わかりやすい内容だと、記憶に残りにくくなるリスクがある。この場合、ノートを取る身体動作にくわえて、「質問をする」ことがすすめられている。
質問の効果は、研究でも実証されている。大学生同士でペアを組み、講義内容について質問を出し合うようにしたところ、それがなかった対照群に比べ、「要点をまとめる問題や考える必要のある応用問題の成績が向上」したという。
もっとも、質問をすること自体に心理的抵抗をおぼえる人も多いかもしれない。そうなるのは、1つには「よい質問をしなければならない」という思い込みがあるからだと、佐々木准教授は指摘する。そんなハードルを設定する必要性はなく、極端な話、「復唱」するだけでも学習効果はあるという。つまり、「今の話は、〇〇という理解であっていますか」という聞き方だ。
また、自分1人が質問することに気恥ずかしさがあるなら、生成AI相手にやりとりするという手もある。この場合、1回限りで終わらせるのではなく、「何回か追加で質問を繰り返して返答が正しいかを確認する」ことに留意する。
軽い運動と掃除も効果的
先に触れた「身体動作」は、主に手先を用いるものであったが、身体全体を動かす(運動する)のも効果的だ。
その理由は、身体を動かすと、学習効率を高めるBDNF(脳由来神経栄養因子)が分泌されるというのが1点。また、脳の前頭前野が活性化し、集中力や注意力も上がる。
佐々木准教授は、運動後に語彙の記憶に取り組んだグループは、そうしなかったグループよりも約20%も速く覚えられたという研究を紹介している。
学習効率をアップさせるという意味では、ジムで長時間ワークアウトするといった厳しい鍛錬は不要。佐々木准教授がすすめるのは、朝に運動15分、掃除を10分するというもの。運動は、ラジオ体操のような軽いものでOK。掃除については、まず仕事空間を片付け、「視界に入る情報」を減らす。これによって集中力を削ぐ要因を取り除くことになる。そして、掃除機をかけるとか、机を拭くといった作業は軽い有酸素運動となるが、これは注意力や段取り力を向上させる効果がある。
本書では、ここで取り上げたもの以外にも数々の勉強のコツが載っている。少ない時間でより効率的に学びたいのなら、一読して実践することをすすめたい。
【今日の知力を高める1冊】
『科学的根拠+αで成果を出す 戦略的勉強法』

定価1595円
あさ出版
文/鈴木拓也
老舗翻訳会社役員を退任後、フリーライターとなる。趣味は神社仏閣・秘境めぐりで、撮った写真をInstagram(https://www.instagram.com/happysuzuki/)に掲載している。











