選評/林田直樹(音楽ジャーナリスト)

中世の作曲家二人と、20世紀の作曲家二人の作品を、まったく同じ演奏態度で扱い、何の違和感もなく交互に配列したアルバム『白い花~中世のふたり、二十世紀のふたり 多声楽曲さまざま』(マーキュリー)が実に面白い。

1988年生まれのフランスの古楽鍵盤奏者・指揮者のシモン=ピエール・ベスティオンと古楽グループの「ラ・タンペート」による演奏は、声楽を中心に、ルネサンス・バロック時代の管楽器、各種打楽器やピアノを加えた編成。その響きはあまりにも斬新である。

カトリックの礼拝音楽を出発点としながらも、それを越えて、音と声の放射する霊力があたかも聴き手の内臓にまで深々と響いてくるかのような、異教的な体験へといざなってくれる。

アルフォンソ10世は13世紀のスペイン王でありながら作曲を手がけ、マショーは14世紀フランスで活躍、オハナは20世紀のユダヤ系モロッコ人、ストラヴィンスキーは20世紀のロシア人であるが、ここには明らかに共通の音の美学がある。

一見遠く隔たった時間と場所の作曲家たちを結びつける、こうした刺激的な解釈こそ、新しい時代の文化の価値観を切り拓く鍵となりうるのではないだろうか。

【今日の一枚】
白い花~中世のふたり、二十世紀のふたり 多声楽曲さまざま
シモン=ピエール・ベスティオン指揮、ラ・タンペート
録音/2016年
発売/マーキュリー
問い合わせ/03・5276・6803
商品番号/Alpha261
販売価格/3132円(税込み)

選評/林田直樹
音楽ジャーナリスト。1963年生まれ。慶應義塾大学卒業後、音楽之友社を経て独立。著書に『クラシック新定番100人100曲』他がある。『サライ』本誌ではCDレビュー欄「今月の3枚」の選盤および執筆を担当。インターネットラジオ局「OTTAVA」(http://ottava.jp/)では音楽番組「OTTAVA Salone」のパーソナリティを務め、世界の最新の音楽情報から、歴史的な音源の紹介まで、クラシック音楽の奥深さを伝えている(毎週金曜 18:00~22:00放送)。近著に『ルネ・マルタン プロデュースの極意』(アルテスパブリッシング)がある。

※この記事は『サライ』本誌2017年5月号のCDレビュー欄「今月の3枚」からの転載です。

 

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