文・写真/杉﨑行恭(フォトライター)
2015年の春に開業した北陸新幹線に乗って新高岡駅で降り、城端線(じょうはなせん)に乗り替えた。1897年(明治30年)に開通したローカル線だ。
やってきたのは国鉄時代からのキハ47、しかも昔ながらのタラコ色(赤色)塗装だ。真新しい新幹線から古色蒼然としたディーゼル気動車に乗り換えると、まるでベンツから軽トラに乗りかえたような印象だ。
そして非電化単線の城端線をのんびり走ること約50分、初夏になればチューリップが咲き、教科書にも乗っていた散居村が続く砺波平野を走り、ようやく前に山が迫るところで終着の「城端駅」に着いた。
時刻は夕方、城端駅は通学の高校生たちが迎えの車を待っていた。
床の低いキハ47から、さらに低いホームに降りると、前方に赤錆びた線路の車止めが見えた。
今回訪ねた城端駅は明治31年建築という、開業の頃からの駅舎だという。駅前に出てふり返ると、くろぐろとした能登瓦を乗せた屋根から、旅客待合室にひさしを伸ばす駅舎が夕日に照らされていた。
白く塗られた外壁は分厚そうな下見板張りで駅前の植え込みも立派、開業以来120年の風雪を経たたたずまいが心地よかった。
この城端は、世界遺産・五箇山の玄関で、山地と砺波平野が接するところに開けた中世からの門前町だ。しかも越中富山にありながら、江戸時代は加賀藩に属していた。
地図を見ると、砺波平野が深々と南に食い込んでいる。金沢と城端は山を隔てて隣り合わせの場所だった。
駅から坂道を登っていくと、絹製品や仏具の生産で栄えた古い町並みが現れ、今では越中の小京都として観光客を集めている。
城端駅舎に入居している砺波市観光協会で、町内の見どころを丁寧に教えてくれた。ちなみに城端は「アニメの聖地なんです」という。あるTVアニメの舞台になり、聖地巡礼で駅も賑わったという。
ひとしきり城端駅に停車していたキハ47が、数人の乗客を乗せて発車していった。列車を見送ってふとホーム屋根を見たら、駅の標高は『海抜123米4』の表示があった。123.4m。たぶん1m違ったら、こんな看板は出さなかったろう。
看板といえば、数年前まで掲げられていた木製の駅名看板が待合室に移されていた。北陸新幹線開業を期に駅舎も修繕され、長年使ってきた古い看板を残したという。
この城端駅をはじめ、城端線の沿線の福野駅も明治の駅舎だ。北陸新幹線ブームもすこし落ち着いたいま、富山県のローカル路線をめぐる旅も面白いと思う。
【城端駅(JR西日本 城端線)】
■ホーム:2面2線
■所在地:富山県富山市是安
■駅開業:1898年(明治39年)10月31日
■駅舎竣工:1899年(明治31年)10月
■アクセス:北陸新幹線新高岡駅から城端線で50分
文・写真/杉﨑行恭
乗り物ジャンルのフォトライターとして時刻表や旅行雑誌を中心に活動。『百駅停車』(新潮社)『絶滅危惧駅舎』(二見書房)『異形のステーション』(交通新聞社)など駅関連の著作多数。