取材・文/坂口鈴香

以前紹介した「突然の妻の死……結婚生活の半分が介護だった」では、末松隆久さん(仮名・55)の妻 由紀さん(仮名・54)が若年性認知症となり、グループホームに入居していた。ある夜中の見回りで、呼吸をしていない由紀さんを職員が発見したが、夜勤中の末松さんに連絡がつかなかったため、救急車を呼ぶこともせず、医師の到着をただ待っていたという。勤務明けの末松さんが着信に気づき施設に連絡した。職員は「救急車は呼んだのか」と聞かれて、ようやく救急車を要請。救急隊が蘇生処置をしながら医療機関に搬送したものの、発見から4時間以上経っておりすでに手遅れだった。末松さんはグループホームの対応に憤りと不信感が募っていた。
この話を読んだあるケアマネジャーは、「『看取り介護についての同意書』や『急変時の医療等の意思確認書』はどうなっていたのでしょうか。それらがあれば、施設の対応と末松さんの認識が大きく食い違うことはなかったかもしれません」と疑問を呈する。
「看取り介護についての同意書」「急変時の医療等の意思確認書」とは何なのか、親が入院したり施設に入ったりすると意思確認のために求められる書類なので、これらに署名をした経験がある方は少なくないだろう。今回は、「看取り介護についての同意書」「急変時の医療等の意思確認書」について考えてみたい。
「看取り介護についての同意書」とは
「看取り介護についての同意書」とは、看取りを行っている施設において、「医師が一般に認められている医学的見地に基づき回復の見込みがないと診断した時点で交わす書類」だ。「その後に予測される身体的変化や施設での対応について施設側が説明し、入所者や家族が確認・同意したこと」を示す(姫路市医療介護連携会議作成『介護保険施設・居住系サービスでの看取りの手引き』より)。
この書類を作成する際には、その施設の看取りに関する考え方や看取りに際して行う医療行為、医療機関との連携体制などを盛り込んだ「看取り介護指針」についての説明を受けたうえで、「延命治療を行わない」「施設での看取りを希望する」などの項目について入居者本人もしくは家族が同意し署名することになる。なお、様式や書類の名称は施設によってさまざまだ。
入居時にこの書類を交わす施設もあるが、入居時は「看取り介護指針」の説明のみにとどめ、状況が進み看取り期が視野に入ってくるころ書類を交わす施設もあるようだ。親や配偶者の「死が近いという宣告を受けたようで、ショックを受けた」という家族の声も聞くので、施設側は家族の気持ちを汲み取り、丁寧な説明が求められる。
「急変時や終末期における医療等に関する意思確認書」とは
似た書類に「急変時や終末期における医療等に関する意思確認書」がある。「急変時における医療等に関する意思確認書」と「終末期における医療等に関する意思確認書」を別に作成する施設もある。「終末期」と「急変時」が併記されていると対応に苦慮することがあるので、別に作成したほうがよいと指摘する医療関係者は少なくないが、ここでは併記した形のものについて説明する。
「急変時や終末期における医療等に関する意思確認書」は、「予想された疾患(医師の診断をすでに受けている疾患)が進行したときや、高齢者に高確率で突発的に起こりうる心不全や呼吸不全、脳卒中等で生命の危機に陥ったときに、入所者に意思確認ができる状態ではなく、家族にも連絡がつかない場合に、治療行為をどこまで希望されるのか本人の意思を事前に確認しておくための書類」で、「救急搬送をする際に、救急隊員や搬送先の医師に入所者や家族の意向を施設職員が代わりに伝えるための確認書類」となる(姫路市医療介護連携会議作成『介護保険施設・居住系サービスでの看取りの手引き』より)。
こちらも様式や書類の名称は施設によってさまざまだが、食事が口から摂れなくなったときの「経鼻経管栄養」「胃ろう造設」、病状が悪化したときの「救急車での搬送」「心肺蘇生」「人工呼吸器の装着」などについて、希望の有無が問われる。
【2】につづく。
取材・文/坂口鈴香
終の棲家や高齢の親と家族の関係などに関する記事を中心に執筆する“終活ライター”。訪問した施設は100か所以上。20年ほど前に親を呼び寄せ、母を見送った経験から、人生の終末期や家族の思いなどについて探求している。











