信長(演・小栗旬)が発した「意見書」を読む光秀(演・要潤)。(C)NHK

ライターI(以下I):『豊臣兄弟!』第13回です。まずは、岐阜城での織田信長(演・小栗旬)、明智光秀(演・要潤)のやり取りに触れたいと思います。将軍義昭(演・尾上右近)の様子を尋ねる信長に対して、光秀は、諸国の大名に書状を出していることを説明します。

編集者A(以下A):義昭の立場からすれば、織田信長ひとりに依存するのではなく、多くの大名に支えてほしい、だから書状を出す。ところが信長はそれが気にいらない。幕府安泰を考えれば、義昭の言い分はよくわかります。だから光秀も包み隠さずに信長に言ってしまうのですが、これが義昭と信長の間に不協和音を生み出してしまうわけです。

I:元号を「元亀」に変えたいというのも、信長は気に食わないと言っていました。

A:元亀になる前の元号「永禄」はすでに13年に及んでいますし、将軍の代替わりにあたって改元したいというのが義昭の意向でしょう。本来、改元は朝廷と足利将軍の話し合いで決まるのが通例ですから、能吏で常識人の光秀からすれば、改元は「将軍と朝廷の」専権事項くらいに思っていたのでしょう。いかに実力者といえども信長の意向を忖度する必要などなく、事後報告で充分と考えていた節があります。光秀の表情からそんなことがよみとれました。

I:なるほど。

A:とはいえ、「永禄」という元号には、信長と争っている三好三人衆の「先代」三好長慶が関与していました。このときは、将軍義輝が近江の朽木に滞在していたころで、正親町(おおぎまち)天皇は、将軍抜きで三好長慶と改元の話を進めたのです。新たに将軍になった義昭としては、三好長慶ゆかりの「永禄」を使うのは嫌だったということもあったのかもしれません。

I:将軍抜きで改元の話を進められるほどに三好長慶の力が絶大だったということですが、三好長慶は永禄7年(1564)に42歳(享年43)で病没してしまうのですよね。永禄7年というと、永禄3年(1560)の桶狭間の戦いの4年後。信長側からみれば、長慶の早死にで天下への道筋が開かれたということになりますね。

A:三好長慶の後継者は、甥で養嗣子の義継がまだ10代だったので、三好宗渭(そうい/演・奥田洋平)、三好長逸(ながやす/演・中野英樹)、石成友通(演・阿部亮平)の「三好三人衆」でした。とはいえ、宗渭が長慶の父元長のはとこ。長逸が長慶の父の従兄弟という、わりと遠い関係です。石成友通にいたっては、三好一族ですらなく、長慶の家臣の出です。

I:長慶の家臣というと、松永久秀(演・竹中直人)と出自としては同じになりますね。結局は義昭の意向の通り「永禄」から「元亀」という元号に変わるわけですが、歴史上「亀」のつく元号は古代に集中して存在しました。

「霊亀」(715年~717年)元正天皇
「神亀」(724年~729年)聖武天皇
「宝亀」(770年~781年)光仁天皇

A:いずれも天皇の代始を寿ぐ改元で、それぞれ地方から白亀などが献上されたそうです。最後に「亀」のついた「宝亀」から790年ほど経過していますが、あるいは義昭には「代始」を強調したい思惑があったのかもしれませんね。この「元亀」の3年間は、信長にとっては悪夢の日々が続きます。『信長全史』では、〈「元亀」三年間の緊迫興亡ドキュメント「信長包囲網」〉というページを設けていますが、ほんとうに信長にとって危機的状況にあったのが「元亀」なのです。

新しい将軍として改元したい義昭(演・尾上右近)。(C)NHK

常楽寺での相撲大会

信長(右)と相撲を取る浅井長政(左/演・中島歩)。(C)NHK

I:さて、劇中では浅井長政(演・中島歩)も交えて、現在の滋賀県近江八幡市にある常楽寺で相撲が行なわれたことが描かれました。仲睦まじい義兄と義弟の関係であることが強調されたわけです。この場所は、かつては六角氏の領内ですから、「領主交替」も表現されていることになります。

A:常楽寺での相撲は『信長公記』にも描かれているお話です。近江の国中の相撲取を集めて大々的に行なわれたようです。このときに参加した「力士」の名も『信長公記』に記録されています。百済寺の鹿、小鹿、たいとう、正権、長光、宮居眼左衛門、河原寺の大進、はし小僧、深尾又次郎、鯰江(なまずえ)又一郎、青地与右衛門などです。いったい彼らはどんな人物だっただろうと気になったりするんですよね。

I:確かに! はし小僧って、気になりますね(笑)。

A:このとき鯰江又一郎と青地与右衛門が勝ち上がり、ふたりには熨斗つきの太刀と脇差が与えられ、信長の家臣に抜擢されたようです。さらに深尾又次郎は、「能き相撲面白く仕候て」ということで、衣服を下賜されています。もともと信長は相撲好きで知られますし、後年安土城でも大規模な相撲大会を開いているほどです。

I:常楽寺の相撲で勝ち上がった青地与右衛門は、安土城の大会でも奉行のひとりですからね。そういう歴史を踏まえると、現代の大相撲でも「織田信長杯」くらいつくったらいいのにと思うんですよ。

家康の金言と秀吉の「猿芝居」

I:若狭に出陣した秀吉(演・池松壮亮)は、徳川家康(演・松下洸平)と再会します。「あのときの金言を胸に刻んでおります」と秀吉は言いましたが、またしても家康は「あれ誰?」と覚えていない風でした。

A:第5回で、家康は、信長を訪ねた際に、藤吉郎(秀吉)に見送ってもらっているのですが、その時のやり取りになります。藤吉郎に「出世の秘訣」を問われた家康は、「信長殿を信じること」「誰にもできぬことをやってのけること」「恐れず、己を信じて突き進むこと」「大事なのはここじゃと、胸を叩く」「熱意が人を動かし、勝敗を決すること」という5つの「金言」を藤吉郎に与えました。

I:家康があの時、「全部反対のことを言ってやったわ」と後で笑っていたのが印象に残っています。

A:秀吉はこの「金言」を胸に刻んでいます、などと言いましたが、これぞまさに「人たらし」の真骨頂。言われて悪い気はしないと思いますし、これまでの流れでは秀吉は「猿芝居」の名役者。すべて承知の上でのあの態度ということも考えられます。そして、江戸時代に著しく「神格化」された家康の「神以前」を描く本作の「家康像」が楽しみでもあります。

I:「狸おやじ」がかつての家康のイメージでしたが、本作は「イケメン狸」の雰囲気です。これからも猿と狸の化かし合いが続くというわけですね。2023年の『どうする家康』では猿と白うさぎの争いでしたが、『豊臣兄弟!』ではどのような展開になるのでしょうか。

【次ページは「朝倉景鏡という佞人」「本当の「女狐」とは誰なのか?」】

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