
冷酒を楽しむ機会が増えた昨今、日本酒をグラスで飲むシーンも多くなってきました。しかし、どんなグラスを選べばいいのか、どのくらいの量を注げばいいのか、迷うことも多いのではないでしょうか。今回はグラスで日本酒を楽しむためのポイントを解説していきます。
文/山内祐治
日本酒をグラスに注ぐ量はどのくらいが適切?
日本酒をグラスで飲む際、「どのくらいの量を注げばいいのか」と悩む方は多いかもしれません。実は、グラスの種類によって適切な量は変わってきます。
最近はワイングラスのようなものも主流になっていますし、ビアタンブラー(一口用のビールグラス)、薄張りのグラス、ガラス製の杯など、日本酒に使えるグラスは実に多様です。
一般的にワイングラスは並々注ぐものではなく、グラスの一番膨らんでいるところの少し下までが目安です。ビールグラスのようなものなら7割から8割ほど注ぐのがちょうどよいでしょう。
量を少し控えめにすると、グラスの中で香りを滞留させることができます。薄張りや小さめのビールグラスでも、香りを楽しむことは十分可能なのです。
何ミリリットルという細かい数字は、お店側が気にするところ。家で楽しむなら、入れすぎないように注意しながら、少しずつ注ぎ足していくのもよいでしょう。一杯のお酒の温度が少しずつ上がっていくなかで、どのように味わいが変化するのかを楽しむという飲み方もあります。
まずはいろいろなグラスで、いろいろな量を試してみることが大切です。自分なりの心地よいスタイルを見つけるのも楽しさの一つです。
おしゃれな日本酒グラスで気分を盛り上げよう
どうせ飲むなら、気に入ったグラスで楽しみたい。そう思うのは自然なことです。日本酒グラスの選び方は、大きく分けて2つのアプローチがあります。
ひとつは、場に沿うもの、あるいは自分の好きなグラスを選ぶこと。気に入ったグラスで気分が高揚するなら、それが何よりです。
もうひとつは、機能性を重視したグラス選びです。透明なグラスなら、お酒の色を見て楽しむことができます。濁っているのか、おりがらみで、おりが少し浮いているのか、そういった視覚的な要素も日本酒の楽しみのひとつ。あるいはシャンパングラスのようなフルート型のグラスなら、微細な泡の動きを観察することもできるかもしれません。
さらに、デザイン性という点でも幅は広がります。江戸切子や薩摩切子のようなカットグラスは、見た目の美しさだけでなく味わいにも影響を与えます。色は期待・印象に影響し、味や香りの知覚が変わることがあるため、青い切子のグラスなら爽やかなお酒が、赤いグラスならボリューミーなお酒がより良い方向に変化して感じられるのです。これは脳が色彩から受ける印象と酒質がリンクするためで、グラスの色味と日本酒の相性を考えるのも面白い試みです。
いろいろなグラスを揃えるのは大変ですが、少しずつコレクションを増やしていく楽しさもあります。
日本酒をワイングラスで飲むときの量の目安
最近、ワイングラスに日本酒を入れて楽しむケースが増えています。これは、華やかな香りを持つ日本酒や、酸に特徴がある日本酒が市場に多く登場し、評価を得ているからです。ワイングラスはもともと、ワインの繊細で多様な香りを楽しむために設計されたもの。日本酒の香りを存分に味わうにも、とても適した器なのです。
ワイングラスに日本酒を注ぐ際も、基本は変わりません。グラスの3分の1程度という説明もありますが、正確にはグラスの一番膨らんでいるところの少し下まで入れるのが目安です。

このワイングラスで楽しむお酒は、「吟醸」や「大吟醸」と表示されているものが適するでしょう。これらのお酒から立ち上る香気成分をグラス内に溜めることで、香りも含めた豊かな味わいを楽しめます。
ワイングラスにもさまざまな種類があり、大きいものから小さいものまであります。ただし、あまり大きなバルーングラスだと日本酒の香りを捉えきれないこともあるので、小ぶりなワイングラスで十分です。あるいは基準になるものが欲しいなら、国際規格に準じたテイスティンググラスを購入するのもひとつの方法。ソムリエが使用するあの小ぶりなサイズ感が日本酒を楽しむ時にも適しています。
日本酒グラスとおちょこ、それぞれの魅力
冷たいお酒を楽しむ際、グラスだけでなく「おちょこ」という選択肢も忘れてはいけません。
切れ味の良いお酒や、低温で熟成したお酒などは、おちょこで召し上がるのもよいでしょう。おちょこは漢字で「猪口」と書きます。日本酒造組合中央会でも、「ちょこっと飲む」が語源(※諸説あり)と説明しており、少しずつ味わっていただく日本の文化が込められた器なのです。
そして、おちょこにはもうひとつ大切な意味があります。お互いが注ぎ合うことで、コミュニティの絆を強めていくという役割です。昔は杯自体を回し飲みしていたくらいで、お酒を注ぎ合うという行為が、人と人とのつながりを深める文化につながっていました。
最近は日本酒も一升瓶より四合瓶が増えてきたので、直接グラスに注ぐのも悪くありません。ただ、おちょことともにガラス製の徳利(とっくり)や片口(かたくち)などが一緒にあると、自宅での日本酒の時間がより豊かなものになります。
ワイングラス的なものだけでなく、こうした伝統的な酒器も揃えることで、楽しみ方の幅が広がります。「今日はどのグラスで飲もうか」と選ぶところから始まる楽しみは、お酒の時間をより豊かなものにしてくれるはずです。
バカラのグラスで味わう、格別な日本酒時間
バカラのカットグラスやクリスタルグラスで日本酒を楽しむのは、特別な時間を演出してくれます。バカラのグラスは比較的小ぶりなものも多く、その意味では日本酒にも使いやすいサイズ感です。
先述のように、好きなグラスを選ぶという観点で、バカラを選ぶのは素晴らしい選択。グラスジャパンというシリーズもあります。ギフトやお祝いの品としても喜ばれるでしょう。
一方、機能面でグラスを選ぶなら、リーデル社のグラスがおすすめです。リーデルには大吟醸用のステム(足)付きワイングラスと、足のない大吟醸グラスの2タイプがあります。
さらにリーデルには、「純米」という名のグラスもあります。特殊な形状ゆえに、すべてのお酒に合うわけではありません。したがって選んで使う必要がありますが、うまく酒質とマッチすれば非常に面白い効果を発揮します。

https://shop.riedel.co.jp/products/detail.php?product_id=10134

https://shop.riedel.co.jp/products/detail.php?product_id=10563
バカラに限らず、さまざまなメーカーが日本酒用のグラスを出しています。木本硝子、木村硝子、GLASSBACCAなどのメーカーをはじめとして、あの田崎真也さんがプロデュースしたグラス(木村硝子)などもあるので、いろいろ試してみるのも楽しいでしょう。
日本酒グラスをプレゼントするときのポイント
日本酒グラスをプレゼントする際、いくつか考えるポイントがあります。
まず、相手がどのくらい日本酒を好きかという点です。日本酒グラスを贈ろうと考えているということは、相手は日本酒好きのはず。そうした方には、先ほどの機能性を重視したリーデルのようなグラスも喜ばれるでしょう。
もし自分自身も日本酒好きなら、日本酒とその日本酒に合ったグラスをセットで贈るのも面白いアイデアです。華やかなお酒と、その華やかさをさらに引き立てるリーデルの大吟醸グラスをセットにしたり、綺麗なタイプのお酒に綺麗なおちょこを組み合わせたり。あるいは、味わいの複雑な熟成酒にリーデルの「純米」を合わせるのも喜ばれるかもしれません。
まとめ
日本酒を楽しむ時、お酒そのものも大切ですが、それを入れる器も同じくらい重要です。素敵なグラスは気持ちを高めてくれます。ぜひ、日本酒のスタイルに合わせたグラスを選んでみてください。ワイングラスでおいしい日本酒アワードというコンペティションも開催されていたり、また2024年には、酒類総合研究所の協力により、日本酒評価用標準化グラス「SAKE TASTING GLASS」も登場しています。
最後にひとつ、日本酒好き・ワイン好きの間で言われているアドバイスを。「酔った時はグラスを洗うな」という言葉があります。気分良く酔っている時にお気に入りのグラスを割ってしまっては残念です。水を張っておいて、翌朝アルコールが抜けてから洗う方が安全。ちょっとしたことですが、大切なグラスを長く使うためのコツです。
日本酒グラスの世界は、思った以上に奥深く、そして楽しいもの。自分に合ったグラスを見つけて、日本酒の新しい魅力を発見してみてください。

山内祐治(やまうち・ゆうじ)/「湯島天神下 すし初」四代目。講師、テイスター。第1回 日本ソムリエ協会SAKE DIPLOMAコンクール優勝。同協会機関誌『Sommelier』にて日本酒記事を執筆。ソムリエ、チーズの資格も持ち、大手ワインスクールにて、日本酒の授業を行なっている。また、新潟大学大学院にて日本酒学の修士論文を執筆。研究対象は日本酒ペアリング。一貫ごとに解説が入る講義のような店舗での体験が好評を博しており、味わいの背景から蔵元のストーリーまでを交えた丁寧なペアリングを継続している。多岐にわたる食材に対して重なりあう日本酒を提案し、「寿司店というより日本酒ペアリングの店」と評されることも。
構成/土田貴史











