
ライターI(以下I):『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』(以下『べらぼう』)第45回です。
編集者A(以下A):前週の第44回では、蔦重(演・横浜流星)が安徳寺の襖を開けるとそこには、松平定信(演・井上祐貴)、高岳(演・冨永愛)、三浦庄司(演・原田泰造)、長谷川平蔵(演・中村隼人)らが居合わせているという衝撃の展開でした。襖を開けた際の蔦重のいぶかしげな表情が秀逸でしたね。
I:おそらく多くの視聴者が蔦重と同様に「なんで、このメンツが揃っているの?」と、襖を開けた瞬間の蔦重の心中とシンクロしたのではないかと思います。
A:「こんなことありえない!」と感じた人も多かったかのではないでしょうか。「え? どういうこと?」と絶句した方もいたかと思います。でも私は別の見方をしています。前週も触れましたが、本作は「蔦重栄華乃夢噺」。劇中にも登場した黄表紙のヒット作『金々先生栄花夢』は、江戸に来た主人公が、粟餅を注文して、その粟餅ができあがるまでの間にうたた寝してしまい、その間に見た夢をベースに物語が進んでいきました。蔦重が襖を開けた瞬間に物語は「栄華乃夢噺」パートに入ったと受け止めました。もう「こんな設定ありえない」などというのは野暮なこと。だって、「夢噺」なんですから。
I:なるほど。きっと制作陣は、蔦重たちが大勢で黄表紙の「案思」を考えていたように、終盤の物語をどうするか、考えていたんでしょうね。そう思うとなんだか胸熱です。
A:スタート以降、蔦重中心の「吉原・日本橋パート」と田沼意次(演・渡辺謙)から松平定信に権力が移行する過程を描いた「江戸城パート」が絶妙なバランスで展開され、両者の共通の人脈である平賀源内(演・安田顕)が橋渡し的な役割で、自由闊達な時代の空気を伝えてくれていました。まさに「痛快エンターテインメント」。物語が残り3回という段階で、いったいどんなエンディングを迎えるのか、とわくわくさせられます。
I:なるほど。いわれてみればそうですよね。
A:いまから40~50年ほど前、地上波テレビを席巻していたのが「昭和の時代劇」。例えば、『水戸黄門』の印篭、『遠山の金さん』の桜吹雪、『大岡越前』のお裁き、さらに悪役を退治する「ちゃんばら」で、視聴者は快哉を叫び、すっきりした思いを味わいました。きっと、最終回まで「痛快エンターテインメント」の名に恥じない、展開になると思っています。
I:さて、今週の『べらぼう』ですが、私は、「曾我まつり」の登場がツボでした。直近では『鎌倉殿の13人』(2022年)で曾我兄弟の仇討ちが描かれました。今から800年前の仇討ち事件が、その後、幸若舞や歌舞伎などさまざまな芸能で「物語化」されています。なんと息の長いことだと感じ入ってしまいます。
「しゃらくせぇ」→「しゃらくさい」→「写楽」
I:さて、邪馬台国の所在地に始まって、日本の歴史上には「謎」が数多く残されています。「東洲斎写楽の正体は?」というのは、そうした「謎」のひとつです。いったいどんな「写楽」が登場するのか、期待していた人は多いのではないでしょうか。東洲斎写楽といえば、事典風に紹介すると、主に歌舞伎役者の大首絵を中心に描いた浮世絵師。寛政6年(1794)5月から翌年の1月まで、約10か月という短期間に140点もの浮世絵を世に残し、そのあとは忽然と消えてしまったことで知られています。その「写楽」をプロデュースしたのが、蔦重。
A:『べらぼう』によって、この時代の解像度が大幅にアップしました。そうか、なるほど。こんな時代背景があって、蔦重が写楽をプロデュースしたのかと。写楽の正体については、百花繚乱、あらゆる説が飛び出てきたわけですが、今週の『べらぼう』をみると、ひとりの人物が写楽を名乗った、ということではないようですね。
I:「しゃらくせえ」から「洒落斎」→「写楽」っていうことですよね。田沼時代の空気が復活したかのような感じでした。かつての松平定信なら「田沼病」っていうのでしょうが、その定信が蔦重側になっているという奇天烈な展開になるのも「夢噺」ならではのことですよね。写楽のことは来週も展開されるようなので、詳細は来週にしましょう。さて、『べらぼう』って、「痛快エンターテインメント」を標ぼうしていたのですが、後半は、ちょっと暗い感じがしていました。「え? この展開、痛快エンターテインメントじゃない……」って感じた視聴者もいたかと思います。それが、最後の最後に「痛快だ!」「すっきりした!」という展開になってくる予感がするということですね。水戸黄門の印籠や、遠山の金さんの桜吹雪、ちゃんばらで悪をぶった斬って、視聴者の溜飲を下げてきた「昭和時代劇」のさらに上をいく「すっきり体験」を体験させてもらえると思うと楽しみでしょうがないです。
A:「夢噺」ですからね。何が起こってもいいように楽しみに待機したいと思います。

●編集者A:書籍編集者。『べらぼう』をより楽しく視聴するためにドラマの内容から時代背景などまで網羅した『初めての大河ドラマ~べらぼう~蔦重栄華乃夢噺 歴史おもしろBOOK』などを編集。11月10日に『後世に伝えたい歴史と文化 鶴岡八幡宮宮司の鎌倉案内』も発売。
●ライターI:文科系ライター。月刊『サライ』等で執筆。猫が好きで、猫の浮世絵や猫神様のお札などを集めている。江戸時代創業の老舗和菓子屋などを巡り歩く。
構成/『サライ』歴史班 一乗谷かおり










