第10代将軍徳川家治を演じる眞島秀和さん。(C)NHK

ライターI(以下I):『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』(以下『べらぼう』)が参院選の投開票で1週お休みということになりました。ということで、お休み回恒例の好き勝手に放談する回をお届けします。

編集者A(以下A):昭和38年の『花の生涯』から始まった大河ドラマは、『べらぼう』で64作目になります。徳川将軍家が題材になる作品も多かったのですが、今まで第10代将軍家治と第11代将軍家斉は、大河ドラマ未登場でした。『べらぼう』では眞島秀和さんが演じる家治が、第1回から登場しています。

I:将軍になる前ということであれば、1995年の『八代将軍吉宗』に少年時代の家治が登場していたのですよね。

A:大河ドラマに初めて登場した「将軍家治」を見て、第10代将軍家治は名君だったのではないかと思ったりしています。そもそも家治は、祖父である吉宗からの期待を背負っていました。40年ほど前に読んだ『徳川将軍列伝』(秋田書店刊)の家治の項では「吉宗は幼少よりすでに聡明のほまれ高かった孫の家治に大きな期待をかけ、かれをことのほか寵愛した」「吉宗は延享2年に将軍職を退き、大御所となって西の丸に移ったが、それから宝暦元年に没するまでの6年間、家治をつねに傍らに侍らせて、将軍となるべき心得を直接指導した」と書かれています。

I:でも、家治のことを書いている本を読んだりすると、政治を田沼意次(演・渡辺謙)に任せっきり、政治に関心がなかったのではないかなどと書かれていたりします。

A:合戦続きの戦国時代には、家康のようなリーダーが求められたかもしれませんが、幕府が成立して150年以上経過しています。官僚機構も充実して、信頼できる家臣がいるのであれば、変に口を挟むよりも、自由にやってほしいという姿勢を貫いたのではないかと思ったりしています。

I:それが「吉宗の教え」ということであれば、めちゃくちゃおもしろいですけどね。

A:大河ドラマ『八代将軍吉宗』には、『べらぼう』で石坂浩二さんが演じていた松平武元が香川照之さんでした。若き日から、将軍吉宗の側に仕え、その薫陶を得て、孫の家治の政治を主導する。田沼意次も同様で、『八代将軍吉宗』には、意次の父・意行に加えて、若き意次も登場します。

I:幼少の頃から英邁だと評判で、祖父吉宗から期待をかけられ、吉宗自らいろいろと教えを与えたのが将軍家治。その家治の脇を固める功臣がすでに吉宗治世のうちに政権中枢にいたということですね。

A:自ら音頭をとって先頭に立つタイプの名君もいますが、やはり、配下に実権を与えて、自由に仕事をさせる。世の中にはとかく箸の上げ下ろしまで指示をせずにはおられない、リーダーもいますが、家治のようなリーダーこそ本物のリーダーではないかと、『べらぼう』を見て強く感じた次第です。

I:『初めての大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄花乃夢噺~」歴史おもしろBOOK』の取材の際に、家治は詰将棋が好きで、著書まで持っていることを知りました。文化方面で多趣味で、わがままといったら、日光社参をしたいと言い出したことくらいですかね。歴史に「もし」はタブーですが、もう少し家治が長生きしていたら……。日本の歴史はどう変わったのでしょうか、そんなことを思わずにはいられません。

A:蝦夷地のこと、印旛沼の開拓のこともそうですが、家治の死で「空気」が変わったのは事実です。家治の死は、政権中枢にいた田沼意次らの運命だけではなく、市井で暮らす蔦重(演・横浜流星)らの運命をも変えていきます。家治の死から変わった「空気」は、幕末から維新と人々を翻弄していきます。

I:確かに、蔦重のころに日本橋で商いをしていた店で今も商いを続けている店は多いですが、蔦重の耕書堂、鶴屋喜右衛門、西村屋などの本屋は、幕末維新の荒波を乗り越えることができませんでした。

A:何が時代の空気を変えたのか。『べらぼう』でその秘密が明かされるのだと思います。

●編集者A:書籍編集者。『べらぼう』をより楽しく視聴するためにドラマの内容から時代背景などまで網羅した『初めての大河ドラマ~べらぼう~蔦重栄華乃夢噺 歴史おもしろBOOK』などを編集。同書には、『娼妃地理記』、「辞闘戦新根(ことばたたかいあたらいいのね)」も掲載。「とんだ茶釜」「大木の切り口太いの根」「鯛の味噌吸」のキャラクターも掲載。

●ライターI:文科系ライター。月刊『サライ』等で執筆。猫が好きで、猫の浮世絵や猫神様のお札などを集めている。江戸時代創業の老舗和菓子屋などを巡り歩く。

構成/『サライ』歴史班 一乗谷かおり

 

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