日本酒の世界には、味わいや香りを左右する重要な要素がいくつもありますが、その中でも「精米歩合」は日本酒の品質やランクを決める大きな要素のひとつとなっています。これから日本酒を楽しみたいと考えている方にとって、この精米歩合を理解することは、より深く日本酒の魅力に触れるための第一歩となるでしょう。本記事では、精米歩合の基礎から、味わいへの影響、さらには最新の技術動向まで解説していきます。

文/山内祐治

目次
精米歩合の読み方。日本酒を語るための基本用語
日本酒の精米歩合。パーセンテージが示す磨きの度合い
日本酒の精米歩合が高いとは? 誤解しやすい表現への正しい理解
日本酒の精米歩合による味の違い。複雑さとピュアさの対比
日本酒の精米歩合の最高。極限に挑む酒造りの最前線
日本酒の精米歩合と甘さ。香りも含めた総合的な味わい
まとめ。精米歩合を知って日本酒をもっと楽しむ

精米歩合の読み方。日本酒を語るための基本用語

精米歩合は「せいまいぶあい」と読みます。日本酒を語る上で欠かせない基本用語であり、特定名称酒を名乗るお酒のラベルには必ず記載されている重要な情報です。日本酒の世界で知識を深めていく際に、この「精米歩合」という言葉をしっかりと覚えておくことで、お店での会話も弾みます。

蔵人たちは、この言葉を使いながら日々の酒造りに励んでいます。「今年の大吟醸は精米歩合40%だ」「純米吟醸酒は60%磨きで仕込むぞ」といった具合いに、精米歩合は酒造りの設計図のような役割を果たしているのです。

日本酒の精米歩合。パーセンテージが示す磨きの度合い

精米歩合とは、“玄米に対する白米の重量割合”のことで、簡単に言えば“お米を磨き残した割合”を示すパーセンテージです。例えば、精米歩合が80%であれば、元の米の20%を削り取り、80%が残っていることを意味します。逆に精米歩合40%は、元の米の60%を削り取って、40%だけを使用していることになります。特定名称酒は、精米歩合とアルコール添加の有無によって8つのランクに分かれています。

ところで、なぜお米を磨くのでしょうか。それは、お米の粒の外側と内側で成分が少しずつ異なるからです。お米の外側の層にはタンパク質や脂質、灰分などが多く含まれており、これらは日本酒に複雑な味わいをもたらしやすくします。一方、お米の内側は主にデンプン質で構成されており、この部分だけを使用することで、より清らかで繊細な味わいのお酒を生み出すことができるのです。

日本酒の歴史において、お米を精密に磨く技術は比較的新しいものです。特に明治以降の技術革新によって、高度な精米が可能になり、現在では限りなく0%に近い精米歩合のお酒も登場しています。この技術の進歩が、日本酒の味わいの進化と重なり合い、今日の多様な日本酒文化を形作っているのです。

日本酒の精米歩合が高いとは? 誤解しやすい表現への正しい理解

“精米歩合が高い“とはどういう意味でしょうか。ここで少し混乱が生じることがあります。精米歩合が高いというのは、パーセンテージの数値が大きいということであり、言い換えればあまり磨いていないことを意味します。例えば精米歩合80%は、お米をあまり磨いておらず、元の米の多くの部分を残していることになります。

逆に、“精米歩合が低い“というのは、パーセンテージの数値が小さいことを指し、より多くお米を磨いていることになります。精米歩合40%は、80%よりも多く磨いており、より手間とコストがかかるため一般的に高級なお酒として位置づけられる傾向があります。

ただし「高精白」「高精米」といった表現には注意が必要です。これらの用語は混乱を呼ぶ場合があります。誤解を避けるためには、単に「よく磨いている」「あまり磨いていない」という明確な表現を使うことをおすすめします。

日本酒の精米歩合による味の違い。複雑さとピュアさの対比

精米歩合の違いは、日本酒の味わいに大きな影響を与えます。その最大の違いは「複雑さ」と「ピュアさ」のバランスにあります。

精米歩合が低い(よく磨いた)お酒は、一般的にピュアで綺麗な味わいが特徴です。特に大吟醸などでは、酵母由来のフルーティーな吟醸香が際立ち、口当たりも滑らかで洗練された印象を与えます。リンゴや梨を思わせる華やかな香りも、よく磨いたお米から生まれる特徴です。

一方、精米歩合が高い(あまり磨いていない)お酒は、より複雑で奥行きのある味わいとなります。米の外側に含まれるタンパク質や脂質などの成分が、深みや骨格のある味わいを形成し、時には力強さや個性的な特徴を持つお酒になります。熟成によって生まれる深い旨味や、米本来の豊かな風味を楽しみたい方には、こうした精米歩合が高めのお酒もおすすめです。

どちらが正しいということではなく、その日の気分や料理との相性によって選ぶのが日本酒の楽しみ方。精米歩合の違いを知ることで、より自分好みの一杯に出合えるでしょう。

日本酒の精米歩合の最高。極限に挑む酒造りの最前線

精米歩合の「最高」にはふたつの解釈があります。ひとつは精米歩合が最も小さい(最もよく磨いた)お酒、もうひとつは精米歩合が限りなく100%に近い(ほとんど磨いていない)お酒です。

現在、最も精米歩合が低いお酒としては、1%を切るお酒が存在します。宮城県の新澤醸造店では「零響」と名付けられた、精米歩合0.85%という極限まで磨き上げたお酒が製造されています。これは、お米を99.15%も削り取り、わずか0.85%だけを使用するという驚異的な技術の結晶です(※現在、精米歩合「1%未満」の場合は、“1%未満”という表記に統一されています)。

「零響 -Absolute 0-」(新澤醸造店)
https://niizawa-brewery.co.jp/item/182/

一方で、精米歩合100%の清酒はどうでしょうか。実は酒税法上の規定で、原料として「米、米麹、水」と定められており、玄米(精米していない米)は対象外と考えられていたのですが、近年、玄米を使用した純米酒が発売されています。精米技術の進化に伴い、極限まで磨いたお酒が話題を集めていますが、同時に“あまり磨かないお酒”の魅力を再評価する動きも見られます。それぞれに異なる魅力があり、日本酒の多様性を支える重要な要素となっています。

日本酒の精米歩合と甘さ。香りも含めた総合的な味わい

精米歩合と甘さの関係は、一概に「精米歩合が低いほど甘い」とは言い切れません。しかし、市場に出回っている商品の傾向として、よく磨かれたお酒(精米歩合の低いもの)の方が甘く感じられることが多いのは事実です。

これにはふたつの理由があります。ひとつは、お米の外側に含まれる成分が少なくなることで、すっきりとした甘みが際立つこと。もうひとつは、吟醸香などの香りが甘さの印象を強めることです。特にカプロン酸エチルに代表されるリンゴのような吟醸香は、麹によって得られた糖分がその材料になることに加え、人間の脳に“甘さ”を連想させるため、香りが豊かなお酒ほど甘く感じられる傾向があります。

ただし、精米歩合が高い(あまり磨いていない)お酒でも甘い味わいのものは多く存在します。例えば土田酒造(群馬県)のお酒のように、複雑な味わいの中に独特の甘みを持つお酒もあります。甘さを求める場合は、単に精米歩合だけでなく、「甘口」「辛口」の表示や、販売店でのアドバイスを参考にするとよいでしょう。精米歩合はあくまでも一つの指標であり、最終的な味わいは醸造方法や麹、酵母の種類など、様々な要素の組み合わせで決まるものだからです。

まとめ。精米歩合を知って日本酒をもっと楽しむ

精米歩合は、日本酒の味わいを左右する重要な要素であり、日本酒の世界をより深く楽しむための知識の入り口です。お米をどれだけ磨くかという単純な数値ながら、そこには日本酒造りの哲学を感じ取ることができます。

次に日本酒を選ぶとき、(もし記載されているお酒であればですが)ぜひラベルの精米歩合に注目してみてください。あまり磨いていない純米酒から、極限まで磨いた大吟醸まで、その違いを味わってみることで、日本酒の多様な魅力を再発見できるはずです。

そして何より、精米歩合の知識は楽しむための道具であって、良し悪しの判断基準ではありません。今回触れてはいませんが、精米の方法も、球形、扁平(真吟)、原型などいくつもあります。それも含めて最終的には自分の好みに合ったお酒を見つけることが、日本酒を楽しむ最大の喜びなのです。

山内祐治(やまうち・ゆうじ)/「湯島天神下 すし初」四代目。講師、テイスター。第1回 日本ソムリエ協会SAKE DIPLOMAコンクール優勝。同協会機関誌『Sommelier』にて日本酒記事を執筆。ソムリエ、チーズの資格も持ち、大手ワインスクールにて、日本酒の授業を行なっている。また、新潟大学大学院にて日本酒学の修士論文を執筆。研究対象は日本酒ペアリング。一貫ごとに解説が入る講義のような店舗での体験が好評を博しており、味わいの背景から蔵元のストーリーまでを交えた丁寧なペアリングを継続している。多岐にわたる食材に対して重なりあう日本酒を提案し、「寿司店というより日本酒ペアリングの店」と評されることも。

構成/土田貴史

 

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