不透明な時代が続いていることも理由なのか、神社の参拝をする人が増えている。2025年1月、伊勢神宮(三重県)は正月三が日の参拝者数が約41万人だったと発表。これは2024年より10%以上増えているという。厳島神社(広島県)も参拝客が増え、本殿まで2時間待ちだったという報道がされた。このように、有名で観光地でもある神社は人が集まるが、無名だと護持運営さえ難しいケースもあるという。
啓一さん(64歳)は「不動産関連会社の定年後、地元の小さな神社でアルバイトしており、年々、参拝客は減り続けいることを感じます」という。
【これまでの経緯は前編で】
彼女と別れ、運気が下がり始める
38歳のときに5年交際した彼女と別れてから、仕事が下り坂になっていったという。
「彼女が福の神だったんでしょうね。別れてから運気が下がり始めました。2000年ごろから景気はどんどん悪くなるというか、下々である私たちに、お金が回らなくなったことを実感したんです」
その頃からメディアは紙からデジタルに移行。印刷会社も新聞社も余裕がなくなっていった。
「本業だった印刷会社が大規模なリストラを行い、42歳の僕はクビこそ免れたものの、給料が大幅に減らされた。活気がない会社にいても、悪くなるだけだと感じ、不動産関連会社に転職。社長が飲み仲間で誘われたんですよ。新規に立ち上げたリフォームの営業をする部隊を任せてもらい、売上を伸ばしました。マンションのリノベーションもブームでしたしね」
組織に属し、部下の相談に乗ったりしていると、自分の人生の空虚さに苦しくなっていったという。
「遊び半分で仕事をして、生活に困らない程度の仕事を楽に稼いで、若い頃から多くの人を傷つけ、不誠実な行動を重ねてきた人生でした。父が64歳でガンで亡くなったときも、ろくに見舞いもしないどころか、話も聞いてあげなかった。78歳で亡くなった母の介護も妹任せ。金だけは渡していましたけれどね。“お兄ちゃんは冷たい”と言われて、今は絶縁状態。“今後、きょうだいの縁を切る”と言われた言葉が耳に残っている」
他にも、若い時に交際していた女性の財布から金を抜いたこと、可愛がってくれた社長が持っていた万年筆をこっそり質入れしたことなどを、鮮明に思い出したという。
「50代になると、家族を得たり発展する未来がなくなる。だから過去の後悔に押しつぶされるんでしょうね。そのとき、僕は家の近くの神社……今アルバイトしている神社にお参りに行ったんです。日参するうちに、気持ちがどんどん晴れてきた」
54歳から1年間、毎日のように参拝を続ければ、顔見知りもできる。
「難病の息子の病気平癒を願う30代の女性、事故がないように日参する建設会社を経営する40代の男性など、いろんな人たちと挨拶するようになったんです。そのときに、この世は皆の祈りが支えており、自分は傲慢に生きてきたんだと気づいた」
神社と繋がりたいと思ったが、写経や座禅などのイベントがある寺院とは異なり、神社はそれがない。
「あるとき、社務所に達筆で“大晦日の助勤奉仕、男性求む 委細面談”という古風な求人が貼られていたんです。問い合わせると、大晦日の参拝客の案内や、テントを立てるなどの雑用をする男性を求めているという。“やります”と言ったらすぐに採用されました」
神社の代表である宮司さんも日参する啓一さんのことを覚えていた。
「これをきっかけに、土日の境内清掃、年末の煤払いなども頼まれるようになりました。仕事があるので、週末やイベントのときの手伝い程度でしたが、お参りするのと、運営に関わるのは全然違う。一番神様を感じるのは、元旦の深夜。寒い中、ずっと境内におり、深夜2時ごろに人の列が途切れることがあった。そのとき、空間は静寂に包まれる。“ああ神様が来ている”と思うこともあるんです」
【ご祈祷する人が減り続け、この10年で半分以下に……次のページに続きます】